三郎の家に一緒に住むことになり、私は部屋をひとつもらった。普段は使っていない部屋らしいがとてもきれいに掃除してあって、特に部屋を片付けることもなくその日は眠った。そして次の日の朝目覚めて一番最初に目に入ってきたのは三郎の幸せそうな寝顔であった。心臓が口から飛び出すほど驚いたが声は出さなかった。一人暮らしをずっとしているとどんなに驚いても声を出さないし表情にも出なくなるものである。もしかしたら私だけかもしれないけど。飛び跳ねる心臓を落ち着かせつつ静かにベッドから抜け出そうとすると手首をつかまれた。

「名前おはよう…」
「おはよう三郎…何で一緒に寝てるの?」
「んん?なんでだっけか…まだ眠いからあとで話す…」
「えっちょっ三郎!ヘイ!起きて!」
「んー…ノー……」

すこやかに眠る三郎にベッドにひきずりこまれた私は三郎が起きるまで身動きもとれずにひたすらうなっていた。その後一人爽やかに目覚めた三郎によると、一人暮らしの時は平気だったが、他に人が家にいるのに一人で眠るのは寂しかったので私のベッドに潜り込んだらしい。どういう理由だ。そしてその後もちょくちょく三郎は私のベッドに侵入するので業を煮やした私が部屋の扉に鍵をつけることを提案したところ、ふてくされた三郎は半日部屋から出てこなかった。私の。何故ふてくされる時まで私の部屋に閉じこもるのだろうか。結局その時は部屋に鍵はつけないと約束してなんとか三郎のご機嫌は治ったのだった。そしてその日も当然のように三郎は私の部屋に眠りにきた。

「結局こうなるのかあ…」
「別にいいだろ。変なことしないし」
「うーん…いいのか…いいのかなぁ…」
「あ、明日雷蔵たち遊びにくるって」
「本当?じゃあ私何かご飯つくろうかな!」
「いや…名前のその気持ちだけで十分だ…」
「何でよ!つくるよ!」
「だって名前雷蔵並に大雑把だから…」

雷蔵というのは三郎の昔からの友達で、他人のそら似では済まされないほど三郎と顔が似ている。性格は似てないけど。三郎と仲良くなってしばらくしてから、私は雷蔵含む四人の友達を紹介してもらったのだ。四人ともすごく優しいのですぐに仲良くなれた。ちなみに私が料理をすると台所がちょっとした惨状になるので三郎からなるべく料理はしないでくれと言われている。料理なんてガッと作ってバッと食べてザッと片付ければいいと私は思うのだが三郎はそれがダメらしい。繊細な男である。そんなことだから普段の食事はほとんど三郎がつくってくれている。私としては非常に楽だが申し訳ないことだ。

「…名前はいるだけで面白いからいいよ」
「えー…何だそれ…」
「いいんだよ、俺料理も掃除も好きだから。明日皆遊びにくるの楽しみだなあ」
「うん、楽しみ。皆に会うの久しぶり」
「じゃあそろそろ寝るか」
「うん。おやすみ三郎」
「おやすみ、名前」

この家はとても静かで暖かくて、大きな繭の中にいつもいるみたいだった。

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