このところ三郎から全く音沙汰がない。いつもは週に何回も電話してきたり、そうでない日は僕の家に来たりして鬱陶しいくらいなのに。気になってこちらから電話をしてみたけれど、三郎はいつも通りの少し人をからかうような感じの口調で日常の細々したことを話して、電話を切った。何かあったんだろう、きっと。だって全く名前のことを話さなかったし、三郎はいつも本当に助けが欲しい時にこそ助けを求めない奴だから。
 以前ならば僕は頼りにされていないのだろうかとか、信用されていないんじゃないか、いやそれとも本当に助けなんて必要ないのかもなんて思って落ち込んだり迷ったりしたものだったけれど、今ならそれは違うと分かる。あいつは、信じているからこそ自分の内面を見せる事を怖がっているのだと思う。こんな事を言ったら嫌われるんじゃないか?こんな事を考えていました、やりましたって言ったら軽蔑されるのでは?そんな事を考えてどんどん一人で深みにはまっていくのだ、三郎は。きっと名前に対してもそうやって自分から距離を置いたんだろう。…まあ名前にもそういうところはあるけど。ふたりとも似た者同士だから。

 …本当に馬鹿だと思う。そんな事で嫌うくらいならばあんな面倒くさい奴と何年も友達でいるものか。三郎。お前は本当にいつまでたっても弱虫のままだね。表面ばかり取り繕うことを覚えたって、僕は騙されない。
 
 携帯電話と財布だけをポケットへ突っ込んで外へ出た。今会いに行くよ、三郎。

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