三郎が研修旅行に出かけてからあっという間に一週間が経った。二人で暮らすことにすっかり慣れていた私にとって、久しぶりの一人暮らしは何故だかとても味気なく感じた。朝起きた時に一人でベッドにいることや、テレビを見ていて面白い場面があった時に隣を見ても誰もいないこと。それをひどく寂しいと感じてしまった。たった一週間三郎がいないだけでこんな風に感じるなんて。

いつのまにか酷く三郎に依存していた自分に気づき、うろたえた。
彼が近づくと逃げて、遠ざかると寂しがる。まるで私はいつかの三郎みたいだ。
こんな風ではいけない。三郎に寄りかかりすぎては、彼をつぶしてしまう。三郎がいなくても大丈夫だったということをちゃんと見せよう。しばらくは距離を置こう。そう決めた私は誰かに話を聞いてほしくなり、雷蔵に電話をした。雷蔵は電話で一通り私の話を聞くと、静かに言った。

「名前、それは、逃げだよ」

しんとした家の中で、受話器から聞こえる雷蔵の声だけが響いた。私は受話器をきつく握り直すと、雷蔵に尋ねた。
「…何で?前に、ハチがあんまりべったりなのは良くないって言ってたし、それに」
「うん。わかってるよ。でも八左ヱ門が言ってたのは距離を置けとか、そういう意味じゃないと思う。…あれ、でも実はそういう意味なのかな…いや、依存し合うのは良くないという意味であってお互い自立していれば別に…うーん…えーっと…とにかく距離を置くよりも、ちゃんと向き合えばいいと僕は思うよ。じゃ!」

雷蔵は何だか色々と難しいことをまくしたてると、最後に大雑把な感じを発揮して電話を切ってしまった。結局、どうすれば一番いいのだろう。向き合うって、三郎と?どうやって?今日は三郎が帰ってくる日なのに、帰ってきたらどういう態度をとればいいのだろう。受話器を持ったままぐるぐると考えていると玄関がすごい勢いで開く音がして、三郎が居間まで走ってきた。

「名前、ただいま!」

両手に色々な荷物を持って、背中にもかばんを背負って、嬉しそうに居間に飛び込んできた三郎を見た途端、それまでややこしい事を考えていたのが嘘のように私の体は勝手に動き、三郎にタックルをしていた。

「おかえり!三郎!!」
「喜びをタックルで表現するな!犬かお前は!」



色々考えなくてはいけないことはある。でも今この瞬間だけはまだ。明日からはちゃんと考えます。そう思い、雷蔵とハチに心の中で謝った。

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