あるうららかな日。裏山を散歩しているとちょっとした花畑を見つけた。すごくきれいだ。しかもこの花は薬にもなるはず。善法寺に今度教えてあげようかな。歓喜した私は早速しゃがみこんで花を摘み始めた。花を摘むのに夢中になってどんどん花畑の真ん中へ進んでいくと、うろんな目つきをして花の中に隠れるようにしてしゃがんでいた仙蔵と目が合った。

「うわあ……」

思わず数歩うしろへさがるとワサワサとした動きで仙蔵が立ち上がった。

「うわあとは何だ失礼な」
「時には客観的な目で自分を見るのも大切だと思うよ仙蔵」
「私はいつでも冷静で客観的な目を忘れない男だぞ名前」
「そうですか…で、何してたの」

そう尋ねると何故か仙蔵は頬を赤らめて視線を地面へ落とした。

「実はだな」
「はい」
「この間、その…なんだ、名前に相談をしただろう」
「ああ、したねえ」
「その時の礼をまだしていなかったと思ってな…」
「あー、そんなの気にしなくっていいのに」
「だ、ダメだ!シャンプーだってもらったし…!」
「シャンプーは斉藤からもらったんだけどね」
「とにかく礼をしたいんだ」

仙蔵は何故かしきりにもじもじしながら私をキッと見てくる。こんなに礼を重んじる人だったっけなあと思いながら頭をぽりぽりかく。

「だから、こ、今度…ま、町にでも行かないか」
「町ー?何しに?」
「甘いものでもおごろうと思ってな…」
「ほんと!?やった、仙蔵ありがとう!」
「あ、あくまでも礼だからな!特別な意味はない!」
「?うん、わかってるって」
「…す、少しは特別な意味もある!!」

怒ったようにそう叫ぶと仙蔵はざざっと後ろへ飛んで私から距離をとった。何で今日はそんなに挙動不審なんだこいつは。

「とにかく、次の休みは町へ行くぞ!」
「わかったー」

仙蔵は手近な木にさっとのぼり、そこからどんどん他の木へ飛び移って花畑から遠ざかっていった。忍者してるなあ…と思いながら仙蔵が去っていったと思われる方向を見ているとまだそんなに離れていない場所から仙蔵が話しかけてきた。

「それから、この前も言ったが…私のことは仙ちゃんと呼んでかまわん!」
「だから遠慮しますって!!」

私の叫びには返事をせず、仙蔵は私のことを仙ちゃんと呼んでいいのは名前だけだとかなんとか言いながら去って行った。そんなに仙ちゃんと呼ばれたいのかあの男は。色々疑問はあるがとりあえず花を摘む作業に戻った私は先程仙蔵がしゃがみこんでいた場所へ行くと、同じようにしゃがみこんでみた。お日様の光がうららかで、周りの花はそよそよと揺れている。あいつ、どんな気分でここにいたんだろう。そう考えると自然と口元がゆるんだ。何はともあれ次の休みが楽しみだ。