夜に裏山で鍛練をしていると偶然仙蔵と会った。

「奇遇だねぇ仙蔵。仙蔵も鍛練?」
「名前か…いや、少し考え事をしに来た」
「そっか。じゃあ邪魔しちゃ悪いから私は鍛練に戻るね」

そう言って仙蔵に背中を向けると腕をつかまれた。

「待ってくれ名前。良かったら私の悩みを聞いてくれないか」
「仙蔵が悩みを相談するなんて珍しいね。私で良ければどんと来い」
「すまないな。立ち話もなんだから少し移動しよう」

二人で大きな木の根元まで移動して並んで腰掛けた。月明りに照らされた仙蔵の横顔はどことなく青ざめている。一体どんな深刻な悩みなんだ…!

「笑うなよ名前」
「う、うん」
「実は最近……すごく抜け毛が多いんだ」
「エッ」
「尋常じゃないんだ。風呂に入った時とか朝起きた時とか」
「か、換毛期じゃないの」
「私は犬や猫ではない!」
「そりゃそうだけど…でもそうかなぁ?普通だよ?髪の毛減ったようには見えないよ?」
「ほ、本当か名前!」
「うん」
「じゃ、じゃあちょっと頭巾を取るから客観的な目で見てくれないか。生え際とか頭頂部とか」
「え、う、うん」

あまりの剣幕に引きながらも仙蔵の頭を確かめる。

「ああ、全然うすくないよ!大丈夫!」
「本当か!ありがとう…こんな話文次郎には死んでもできんからな…」
「いえいえ。あ、そうだ!四年の斉藤に抜け毛にいいシャンプーもらってきてあげるよ!仲良いから。もちろん仙蔵の名前は出さない」
「…名前…!今日からお前と私は親友だ!私のことを仙ちゃんと呼んでも構わんぞ」
「あ、それは結構です」