放課後の教室掃除をしていたら委員会の始まる時間に少し遅れてしまった。急いで行っても仕方のない委員会ではあるが先輩として後輩の一年生に示しがつかないのは困る。先輩というのは常に後輩の模範となるべき存在であると私は考えているからだ。
 小走りでたどり着いた教室の障子を引くと、後輩の庄左ヱ門と彦四郎がちょこんと二人並んで正座している後ろ姿が目に入る。まだ全員そろっていないのにこんなにお行儀よく座っているなんて。待たせてしまって申し訳ない気持ちと少しほほえましい気持ちを抱えながら部屋へ一歩入ると、庄左ヱ門と彦四郎に向き合い、同じようにして正座している鉢屋先輩と尾浜先輩の姿が見えて思わず部屋から出て障子を閉めた。今の光景は一体…。あの二人が委員会中に正座することなんてほぼないのに。壁に手をついて考え込んでいると、すっと障子が開いて中から庄左ヱ門が顔をのぞかせた。

「名前先輩、どうされたんですか?どうぞ中に入ってください」
「う、うん。鉢屋先輩と尾浜先輩どうしたの?正座なんかして」

庄左ヱ門に手を引かれて教室へ入ったが、尾浜先輩と鉢屋先輩は正座をした膝の上にきっちりと両手をそろえて、うなだれている。また何か度の過ぎたおふざけでもしたのだろうか。うなだれる二人を見ながらしょっぱい気持ちを前面に押し出した顔をしていると、庄左ヱ門が何かを思い出したように小さくあ、と言ってから彦四郎と並んで座り、こちらを見た。

「ん?二人ともどうしたの?」
「名前先輩、こんにちは!」

声を揃えて元気のよい挨拶をしてきてくれた二人に思わずよろけてしまう。いついかなる時も挨拶は忘れない。それが忍たまのよいこ達。流石だ。そう思い、私も体勢を立て直してこんにちは、と挨拶をした。何となくのんびりとした空気が私たちの間に流れ、三人でにこにこ笑っていると、部屋の隅の方からわざとらしい咳払いが聞こえてきた。鉢屋先輩と尾浜先輩だ。自分達もそっちに行きたいという雰囲気を全身から発散しつつ咳をしたり畳のへりをいじったりしている。相変わらず状況がわからないままの私は困惑したまま二人の先輩を眺めていたが、庄左ヱ門が瞬きもせずに先輩達をじっと見ると再び二人ともうなだれてしまった。庄左ヱ門こわい。
 私は彦四郎にじりじりと寄って行き、小声で話しかけた。

「ねぇ、庄左ヱ門は何で怒ってるの?」
「えぇっとですね、鉢屋先輩が顔だけ名前先輩の変装をして、褌一丁で走り回ってたんです」
「え………じゃあ尾浜先輩は?」
「やめろよーって言って鉢屋先輩を追いかけていたんですが…大笑いしながらだったので説得力が皆無でした」
「あ、そう……」

ちらっと先輩達を見遣ると二人ともでへへと照れ笑いをして頭をかいている。何故ここで照れるのか…何だか怒る気が失せてしまった。庄左ヱ門にもしっかり叱られたみたいだし。大きくため息をついてから私は庄左ヱ門を呼び寄せた。

「庄左ヱ門」
「なんですか?」
「その…私は怒ってないからあの二人のことを許してあげてくれないかな」
「はい、名前先輩がそうおっしゃるなら」

恐る恐るといった感じで提言してみたが、庄左ヱ門はあっさりとそれを受け入れてくれた。その途端に鉢屋先輩と尾浜先輩が嬉しそうな顔をしてカサカサとこちらへ寄って来た。そして嫌がる庄左ヱ門と彦四郎に頬ずりをしながら私の方に顔を向けてきた。

「済まなかったな名前」
「いーえ、もういいですよ」
「いやぁ、それにしても庄左ヱ門が怒るとあんなに怖いとは」
「本当だよ、俺なんか鉢屋のとばっちりで叱られたんだからな」
「お二人とも自業自得って言葉は知ってます?」
「まあそうツンケンするなよ名前」
「鉢屋先輩がそれを言いますか」
「そういえば、彦四郎は怒ってないの?俺達のこと」

そう尾浜先輩が言うと皆の視線が彦四郎に集まった。急に注目を一身に浴びた彦四郎は少し驚いたようだったがしばらく考えたあとに、はにかむような笑顔でぽつりとこう言った。

「僕は怒るというか…少し軽蔑してました」

その途端に尾浜先輩と鉢屋先輩はまるで雨の日のずぶ濡れの鳩みたいな表情をして固まってしまった。私はというと、必死に笑いたいのをこらえていたのだがこらえきれず、ぷっと吹き出してしまった。大笑いしている私につられるように庄左ヱ門と彦四郎も笑い出し、部屋には三人分の笑い声が響いた。

「ひ…彦四郎!お前私たちをからかったな!?」
「ひどいよ彦四郎〜」
「まあまあお二人とも…」
「あ、僕お茶淹れてきますね」
「庄左ヱ門はマイペースだな…」

庄左ヱ門がお茶を淹れにその場を立つと、尾浜先輩は彦四郎と何故か指相撲を始めた。それをぼーっと見ていると隣に鉢屋先輩が来て、小声で話しかけてきた。

「名前、ちょっと手を出せ」
「何ですか?」
「いいから早く。…ほら、これをやろう」

私の手に乗せられたのは金平糖の入ったかわいい小さな袋だった。驚いて鉢屋先輩の顔を見ると、先輩は照れくさそうに笑った。

「皆であとで食べるおやつは他に用意してあるが、それは私なりのお詫びだ。ちょっとしかないからあとでこっそり食べろよ?」
「…はい!先輩ありがとうございます!」


さっきはどうなる事かと思ったけれど、ようやくいつも通りの学級委員長委員会に戻って良かった。そう思いながら私は、お茶の準備が終わって戻ってきた庄左ヱ門の手伝いをすべく立ち上がった。











3232でリクエストを下さった咲喜様に贈ります。咲喜様、大変お待たせしました!ほのぼの…になっていたら嬉しいのですが…どうでしょうかね…。どうも私はピントのずれた人間らしいのでリクエストに沿えた内容になっているか甚だ不安です。ともあれリクエストと一緒に大変丁寧なお言葉まで頂いてしまって本当に嬉しかったです。リクエストを下さってどうもありがとうございました!

2010.10.01 ヨル