しんしんと雪の降る日の夕方、一年生が外で遊ぶ声を聞きながら私は今、必死の形相で机に向かい、筆を走らせている。明後日提出の課題がまだ出来ていないからである。本当は昨日仕上げるはずだったのだけれど、新しい茶屋が出来たから甘いものでも食べに行こうという友人達の誘いを断れずにほいほいとついて行ってしまったのだ。当然友人達も課題は終わっていないものと信じて。ところが帰り道にそれとなく聞いてみると、なんと私を除いたほとんどの友人が既に課題を終わらせているという。裏切られた気持ちでいっぱいの私に向かって、この時期に課題が出来てないのなんてあんたくらいよ、と友人達は呆れたように言った。友達なんて。友達なんて。恨み言を心の中で呟く私の背後に、よく知る気配が降り立ったのはその時だった。その気配の主、三郎は、私の部屋に音もなく降り立つと私の背中によりかかり、動かなくなった。私はそれに構わず課題を続けていたが、三郎が黙ったままどんどん体重を預けてくるのに閉口してその肩を押しやった。

「ちょっと三郎、じゃま」
「………」

すると三郎は案外素直にどいたが、こちらに背中を向けて床にごろりと横になった。ああ、拗ねちゃった。私は横になっている三郎にちらりと視線を走らせてから課題に意識を戻した。ところがほどなくして三郎は、正座している私の腿にとん、と頭をくっつけてきた。あー、もう、集中できない。私は机の上をざっと片付け、三郎の頭をぐしゃぐしゃとなでた。

「三郎?」
「…名前、冷たい」
「だって課題やってるんだもん」
「………も、いい」

完全にふてくされた三郎は私から少し離れたところで腹ばいになってそっぽを向いてしまった。なんて面倒な奴なんだろう。課題が間に合わなかった時のシナ先生の怖さを知らないからそんな態度がとれるんだ。きっと。じりじりと近づいて肩を揺すっても、三郎は頑として動かない。

「三郎、こっち向いてよ」
「………」

耳を引っ張りながらそう言うと、三郎はちらりとこちらを見た。が、またすぐに顔を伏せてしまった。私はため息をついて、三郎の上にのしかかった。小さな声で重いと聞こえた気がしたが気にしない事にする。そのまま頭をなでたり肩を甘噛みしたり、首元のにおいを嗅いだりと色々していると、三郎の耳がじわじわと赤くなってきた。

「さーぶーろー」
「名前、好き」

三郎はくるりとこちらを向いて起き上がり、腰に抱きついてきた。ぎゅうっと強まる腕の力に、ようやく機嫌を直したことが分かる。そして上体を起こして頬ずりまでしてくるのに、くすりと笑いがもれてしまった。

「三郎、猫みたいだよ」
「名前に構ってもらえるなら猫でもいい」
「そんな図体して何言ってるの」
「…大型の猫なんだ」

三郎は目を細めてそんな事を言い、どんどん私にのしかかってくるものだから、今度は私が床にころりと転がってしまった。

「ねえ三郎、あとで課題手伝ってね」
「いいよ」

その言葉を聞いて安心した私は、三郎の首に腕をまわした。











8836でリクエストを下さったひな様へ贈ります。ものすごくお待たせしてしまってごめんなさい。へたれ三郎ってどんな感じだろうとしばらく考えていましたが、私の書く三郎はもれなくへたれではないだろうかという事に気がつきました。何という事でしょう。ひな様のご希望に沿えたか分かりませんが受け取って頂けたら嬉しいです。リクエストありがとうございました!

2010.11.19 ヨル