あたたかな冬のある日、中庭で見覚えのあるひょろりとした後ろ姿を見かけた。

「三之助?」

呼びかけられて私に気がついた彼はへろへろと手を振りながらのんびりと歩いてくる。こちらへ近づいてくるにつれて私の視線はだんだん上へ上がっていく。…また背が伸びたんじゃないだろうか。

「…名前先輩、こんちは」
「こんにちは。ここ私の長屋のそばだよ?また迷子になってたんでしょ」
「いや、迷子じゃないっすけど」
「………無自覚君め」

三之助の方向音痴は学園内でも有名だが、近頃はそんな彼を捜索する富松君よりも何故か私が三之助を見つけて保護する割合が高くなっている。理由は簡単、三之助はよく私の長屋付近に出没するからだ。おかげで最初は次屋君呼びだった名前も今では三之助呼びになり、だいぶ仲良くなったといえるかもしれない。
 私は小さく息をつくと、三之助の手をとって三年生の教室の方へと歩き始めた。

「もー…今頃富松君達が血相かえて捜してると思うよ」
「それはないと思いますけど。そもそも俺、迷子じゃないんで」
「なんともはや…」

このぶんじゃまたいつ迷子になるか分からないと危惧した私はつないでいる手にぎゅっと力を込めた。すると三之助も素直に手を握り返してきて、こういうところは可愛いと思う。まあ実際はひとつしか年齢は違わないし、背なんて三之助の方が高いから傍から見ると私が三之助に連れられて歩いているように見えるかもしれないけれど。
 私は三年生の教室にいた富松君に三之助を無事に引き渡すとすぐに自分の長屋へ戻った。早くしないと授業に遅れてしまう。それにしても私が三之助を連れて教室へ入った時の富松君の慌てぶりはすごかった。あんなに焦られるとかえってこっちが恐縮してしまう。あれ、でも三之助が迷子になってたのにどうして富松君は捜さないで教室にいたんだろう。もしかして三之助捜索係は完全に私の役目になってしまったのだろうか。それは…責任重大だけれど少し嬉しい、かもしれない。
 
 次の日の放課後。図書室へ本を返して渡り廊下を歩いていると、正面から三之助が歩いてきた。捉えどころのない表情で歩いていた彼は、私を見つけた途端にやわらかく笑みを浮かべるものだから、少し胸が高鳴った。

「名前先輩」
「三之助。図書室行くの?」
「え?こっちって図書室だったんすか?」

…また迷子になっているですと。彼の方向感覚に内心おののきながら苦笑して手を差し出すと、三之助は一瞬考えるそぶりを見せてから私の手をとった。
 そしてそのまま渡り廊下から中庭へ出て三年生の教室へ向かおうとしたが、つないでいる手の持ち主によってそれは止められた。

「…三之助?どうしたの」
「この間から言い続けてんですけど…俺、迷ってないです」
「またそんな事言って〜」
「俺、いっつも名前先輩に会いに来てたんで」
「………ん?」

それはつまりどういう事?思考停止に陥った私の手を三之助はぎゅうと握って笑った。今になってようやく気がついたけれど、三之助の手は私が思っていたよりもずっと、ちゃんとした男の子の手だ。

「俺いっつも名前先輩に告白しようと思って来てたんですよ」
「ま、迷ってたんじゃなかったんだね…」
「…真っ赤になってるとこを見ると、答え期待してもいいですか」

小さく何度も頷くと、三之助は私をふわりと腕の中にいれて、あごを頭にのせてきた。

「いっつも俺が名前先輩に告白してくるって言って出てくのに、迷子だと思われて告白しようと思ってる相手に連れられて戻ってくるもんだから作兵衛達に同情されてたんですよ」
「う…ごめん」
「手ぇつなげるからいいかなって感じだったんですけど、そろそろはっきり言おうかなと」
「それは知らなかった…」

まあ結果オーライですねと言いながら私の腰にまわしている腕の力を強める三之助は、もうどう見ても可愛い後輩ではなくてひとりの男の子だった。













6446でリクエストを下さった 東風様に贈ります。たいへんお待たせしました!三之助くんは年上の女の子と付き合っているという勝手なイメージが管理人の中にはあるのでこのようなお話にしてみました!次のラッキーセブンでのリクエストも実は東風様なので早速とりかかりますね!二連チャンで管理人の感謝の気持ちが詰まっている話を受け取って頂くことになってしまいますが(笑)よろしくお願いします。

2010.11.04 ヨル