食堂で久々知先輩と初めて会話らしい会話ができたあの日から五日。今日は五年生が実習から帰ってくる日らしい。ここのところ毎日のように久々知先輩を観察していたから、先輩がいない五日間は何だか少しつまらないような感じであった。先輩は元気だろうか。夕方になり、夕飯を食べに食堂へ行くと五年生がちらほら帰ってきていたが久々知先輩は見当たらなかった。まだ帰ってきていないのかもしれないなと思いながらのんびりご飯を食べて、部屋に戻ろうと食堂を出て廊下を歩いていると後ろからものすごい足音が聞こえてくる。誰だろうと思い振り向くと、それは久々知先輩であった。先輩は私の目の前まで走ってくるとピタッと止まり、私の両肩に手を置いてじっとこちらを見てくる。ち、近い。いつになく距離が近い。そしてなぜこの先輩はとりあえず私をじっと見るのか。もしかして今は口の周りに食べかすがついているのか!?内心あわてる私をよそに先輩はまだこちらをじっと見ている。そしてふっと大きな目を細め、かすかに笑って「ただいま帰りました」と言ったのだった。初めて先輩が自分に笑顔を向けたうえに距離が妙に近いということで私は軽いパニックに陥った。せ、先輩が笑った。距離が近い。あばばば。だがこれだけはきちんと言わなくては。よし、言うぞ。「く、久々知先輩、お帰りなさい。」すると先輩は笑顔のままもう一度「ただいま」と言って私の肩から手をおろした。そしてぱっと真顔に戻った。「名字はもう食事は済ませたのか?」「はい。今から部屋に戻るところです。」「そうか。俺はこれから実習の報告に先生のところに行くんだ。じゃあまた。」そう言って先輩はさっき走ってきた方へと鼻歌を歌いながら歩いて行った。もしかしなくても先生への報告より先に私のところに来たんだろうかあの人は。相変わらず読めない人である。


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