久々知先輩も私のことが好き?

ぱっと先輩の顔を見ると、先輩は今まで見たことがない、とけてしまいそうな笑顔を浮かべていた。思わず見とれているとつないでいた手を引かれ、やわらかく腕の中に閉じ込められた。抱きしめるというよりはまるで壊れ物を扱うような手つきでくすぐったい。そしてそのまま先輩の顔が近づいて来ておでこが触れる。近っ!

「くっ、久々知先輩…!」
「ありがとう。名字。俺のこと、好きになってくれて」
「こっ、こちらこそありがとうございます!」

あまりの至近距離に混乱して目を白黒させていると先輩は目を丸くして、ぷっと笑った。
「こちらこそって…名字、あわて過ぎ」
「久々知先輩は冷静過ぎです!」
「…そう見える?俺今頭の中すごいことになってる」
「す、すごいことに…?」
「…言わぬが花、知らぬが仏という言葉もある」
「謎かけみたいなこと言わないでくださいよ…」
「とにかく嬉しい。名字、好き。俺と付き合って下さい」
「は……はいっ」

勢いで先輩に好きだと言ってしまったけれど、久々知先輩も私のことを好きでいてくれたなんてまだ現実味がない。期待してしまうようなことは何度かあったが、私が自分に都合のいいように解釈しているだけかもしれないと思っていたから。思えば先輩に矢文で呼び出されたあの日から、ずっと私は先輩のことが気になっていたのだ。…最初は違う意味での気になる、だったけれど。あの時は先輩と付き合うことになるなんて思わなかった。

「そういえば久々知先輩」
「ん?」
「そもそも何故私と友達になろうと思ったんですか?」
「…なんとなく、前から気になってたから」
「な、なんとなくですか?」
「うん。…それより名字、そろそろ暗くなるから帰ろう」
「あっ、そうですね!もう星が見えてますし」

何だかはぐらかされたような気がするがまあいいか。それに案外先輩らしい理由かもしれない。それに今は。私の手を引きながら嬉しそうに少し頬を赤くしている先輩のことだけ考えていよう。色々あったけれど久々知先輩、私はあなたが大好きです。浮かれながらもこの時私の頭の中を占めていたのは、これから始まる夏のことと、先輩とのお付き合いのことであった。


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