今日はとうとう久々知先輩と町へ行く日だ。何日か前から極度の緊張に見舞われ、めまいを起こしたり授業に身が入らなかったりもしたが今はその緊張を乗り越え、程よい精神状態でこの日を迎えられたと思っています。ふふ。朝から真剣な面持ちで身支度をする私に友人は「決闘にでも行くの…?」と言ってきたがフッとあいまいな笑みを浮かべて誤魔化しておいた。そして待ち合わせの時間よりかなり早く門に行くと既に久々知先輩が待っていた。

「先輩こんにちは」
「こんにちは名字」

じいいっと見られる。前は怖かったけど今はまあ慣れたので平気だ。

「…じゃあ行こうか」

ゆるく笑って歩き出した先輩の隣に並ぶ。そうして門を出てから二人で並んで歩いているのだが、なんだかまた緊張してきてしまいうまく話せない。予定ではもっと楽しく色んな会話をするはずだったのに、と焦る。ちらっと横を歩いている先輩を見ると、楽しそうに鼻歌を歌っている。ああ、久々知先輩ってこういう人だった。そういえば。無理に会話しようとしなくてもいいのかもしれない。この際だから間近で観察してしまおうと先輩の横顔を見る。まつげが長くて髪の毛はまっくろでやわらかそうな感じ。今までは変な人だという気持ちが先行していたので気がつかなかったけれど、整った顔だなあ。じいっと見ていると先輩がこちらをぱっと見た。

「名字はさ、甘いものが好きなのか?」

なんと唐突な。やはりこの間先輩だけお団子が食べられなかったことを気にしているのだろうか。

「はい。好きです。どんな時でもおやつの時間は確保します」
「じゃあ今日はいっぱい甘いもの買ってあげる」
「ほ、本当ですか」
「うん。団子でも餅でも大福でも」
「で、でも悪いですよ」
「この間三郎に団子取られたんだろ?」
「そうです。鉢屋先輩はひどい人です」
「だから三郎に取られた分も食べればいい。とりあえず昼食べよう」

そう言って先輩はいきなり私の手をとった。  

「く、くく久々知先輩?」
「何?」
「て、手が、手を、あの」
「手?…ああ、町は人がすごいから、名字とはぐれたら嫌だから」

そんなさも当然のような顔で言われても。手が。先輩とつないでいる手から熱が伝わって顔が真っ赤になるのがわかる。ひいいい。久々知先輩は心臓に悪い!


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