瞼のうらで光がぱちんと弾けたような。
いつかどこかで、ありえたのかもしれない風景が見えた気がした。

ささやかで、滑稽で、あたたかくて、格好がつかない、けれど愛しい。そんな人生を送る自分の姿を確かに見た。いっそそれらが全部なくとも、限られた短い時の中で自分はどう生きるのだろう。そう考えた。もしも自分が人間だったら。魔が差したとしか言いようがない思いつきだった。そんなことはありえない、それでも。人として人を愛するというのは、人として世界にふれるのは、どういう感じなのだろう。この世に生まれて、たくさんの手から手へ転々とわたってきた。どこに在るか、どう在るかを選べるというのは、どんな気持ちがするものなのだろう。人だとてそう何もかも選べるわけではないのは散々見てきて知っているが、一度降ってきた思いつきはなかなか消えようとしてくれない。

とうとう焼きが回ったか。ふと見下ろした着物は赤く染まり左足は鈍い痛みにとりつかれてあまり力が入らない。かりそめの身体でも痛みはあるし血だって出る。人のかたちを保てなくなった仲間達を落とさぬよう腕に力をこめた。もうすこしだ。あちらへ帰ればこの痛みも消える。それはこの身が人ならざるものであればこそのこと。

かぶりを振って大きく右足を踏み出した。今日の夜には皆でそろって酒が飲めるだろう。それでいい。それがいい。消えない光は視界をうめて世界が白くなっていく。
こんなにも違うのにこんなにも近い。伸ばされた手を掴める手のあること、気持ちを伝えられる声が、目が、この身があること。

もしも人間に生まれていたなら。きっと楽しかっただろうと思うこの心があること。
もうすこしでこの痛みも消えるはずだ。