わたくしは真冬の、はりつめたような美しい星空が好きです。耳が痛くなるほど冷たい空気の中で、頬や指先が冷えるのにも構わず一心に空を見つめ続けていますといつしか天地は逆転し、澄んだ川底で白く輝く小石を眺めているような気持ちになるのです。目を閉じるとその水面には波が立ち、光る小石の数は無限に増えてゆきます。…やがて乳白色に発光し始めた水は薄くたなびく幾つもの層となり、わたくしをどこか遠い、深く暗いところへと誘うのでございます。
幼い頃から繰り返し見るそのイメージは不思議とわたくしの心を満たし、同時に胸にかすかな痛みを走らせます。あれは一体どこなのだろうか…考え続けてわたくしはひとつの仮説を立てました。これは…そう、遥か昔…、わたくしが………ポケモンであった頃の記憶なのではないだろうかと。
ある地方の神話によれば、昔はヒトもポケモンも同じ存在であったそうです。そう考えればわたくしの仮説もあながち突拍子のないものだとも言えないでしょう…。

もっと深く、暗く、遠いところへ。
この頃はふとした拍子にそのような声が聞こえることもございます。はじめは疲れによるものか、あるいはただの気のせいであろうと考えていましたがどうにも…はっきりと、聞こえるのです。声というよりも何か言葉では言い表せない観念的なものとでもいいましょうか。日増しに大きくなるそれは一体わたくしをどこへ連れて行こうとしているのでしょう。わたくしのポケモン達に尋ねてみても答えはかえってきませんが…。苦笑して彼らに背を向けた時のことです。怖がることはないのだと、いずれ皆行く場所なのだからと。確かにわたくしにはそう聞こえました。振り返って見た彼らは少し微笑んでいるようにも思えました。…そしてわたくしはそれを聞いて妙に腑に落ちるところもあり、また安心もいたしました。きっとわたくしはあそこから来たのです。わたくしだけではありません、あまねくヒトとポケモンは皆、あの星の川からこの世界へ来て、そしていずれまたあの場所へ帰るのです。


その日の夜、夢を見ました。遠い昔の夢です。
とても冷たい水の中を、わたくしはゆるやかな流れに乗って進んでいます。音もなく光もない世界でしたが、水の中にいるということだけはわかりました。自分がどこへ進んでいるのかはわかりませんでしたが、不安はありませんでした。痛みも後悔も、恐怖もありません。ただ、僅かな悲しみと、たくさんの期待がありました。周りにはわたくしと同じような存在がいくつもあります。大きな流れの中、大勢のわたくしたちは個を失ってゆきます。やがてあたたかいものにつつまれ『わたくし』は思考すら手放して、意識は水の中へ溶けてゆきました。これはきっとわたくしが生まれる前の…