鉢屋三郎くんは、いたずらがすきです。
自分のしかけたいたずらで、人が怒ったり驚いたりするのを見るのがすきです。
ひとの一生なんてはかなく短いものです。だったらせいぜい楽しまなくちゃね、と鉢屋くんは思うのです。
しずかなふゆの日、鉢屋くんはすすきの原っぱへひとり遊びにきていました。
原っぱのまんなかに寝そべると、枯れた草のにおいとふゆの空気のつめたさで、鼻がつんとします。
そらは水色でとうめいで、澄んでいます。
鉢屋くんはゆっくりまばたきをして、それから目をつむりました。
遠くから吹いてくる風がすすきをゆらして、鉢屋くんの頬をくすぐります。
鉢屋くんはおもむろに目をひらき、立ち上がりました。
「気にいらないな」
そうつぶやいた鉢屋くんは、何度も何度も気に入らないとくりかえします。
そして気に入らないとひとついうたびに、どんどん顔をかえていきます。
しんべヱ、ヘムヘム、伝子さん、学園長先生、ユキちゃん。
最後に不破雷蔵くんの顔になると、ようやく鉢屋くんは手をとめました。
「私の変装に慣れてしまったのか、近頃はみんなたいしておどろかない」
おおげさにためいきをついて、地面にひざをつきます。
鉢屋くんのあたまのなかでは、今まさに自分にスポットライトがあたり、まわりの観客は固唾をのんで、ことのなりゆきを見守っている…
ということになっているのです。鉢屋くんには普段から少し、芝居がかったところがありました。
一歩まちがえば、劇場型犯罪をおかすタイプかもしれません。
鉢屋くんはゆっくりと立ち上がり、腕をはげしくうごかして、何かをふりはらうような仕草をしました。
「いや、くじけてなるものか!そう、まだまだ私の変装には改良の余地があるということだ!」
つよい風が吹き、すすきがざわざわと音をたてます。
観客からとばされる賛同の声に力をえて、鉢屋くんはさらに声をはりあげます。
「そうだ、体は若いほうの山本シナ先生で、顔は学園長先生なんてどうだろう。よし、やる気がでてきたぞ」
すっかりきげんが良くなった鉢屋くんは、くるくるっと空中で二回転して、目の色をかえて学園のほうへ走りはじめました。
鉢屋くんがいなくなったあとも、かわらずにすすきの原っぱは平和です。
ただ、そのはじっこに生えている木の上でおだんごを食べていた尾浜勘右衛門くんの心は、あまり平和ではないようです。
「鉢屋…ばかじゃねぇの」
尾浜くんは心底あきれた、というような顔で、そうつぶやきました。