「ナマエ。」縁側で本を読んでいると名前を呼ばれたので顔を上げると、いつもならくるんとしている前髪がだらりと垂れ下がって、斜堂先生のような空気を漂わせた滝夜叉丸がいた。落ち込んでいるんだなわかりやすい奴め。「どうしたの滝夜叉丸落ち込んじゃって。いつも背中にしょってる薔薇はどうしたんだい」そう聞くと滝夜叉丸はわずかに目を輝かせ、「おおさすがはナマエ。わかってくれるか。この成績優秀容姿端麗な…いや、よそう…」いつものぐだぐだ自分自慢が始まるかと思いきや、それっきり滝夜叉丸は黙ってしまった。静かな滝夜叉丸なんて珍しいものを見てしまったぜ。今日はいい事があるかもしれない。でもまあとりあえずは慰めた方がいいだろう。友達だし。「まあここに座りなよ」縁側の私の隣をぽんぽんとたたくと滝夜叉丸はおとなしく座った。おお。今なら何でも言う事聞くんじゃないかこいつ。「まあ食堂のおばちゃんにおにぎり作ってもらってからまたここに来なよ」「何でだ」さすがにこれは無理だったか。「冗談はおいといて、どうしたの滝夜叉丸。落ち込んでる理由を言ってみてよ。私でよければ力になるよ」「…………」だんまりか。だんまりを通す気なのか。面倒な奴め。「滝夜叉丸が静かだと調子が狂っちゃうよ。いつもの面白い話を聞かせてほしいな〜…」だいぶ白々しくなってしまったがこれならどうだおだてていつもの調子を取り戻させる作戦。「ほらっいつもみたいに背中に薔薇をしょった方がかっこいいよ!あんなに薔薇が似合うのは滝夜叉丸くらいじゃないかな」うーん。私が人を慰めるということに慣れていない上に相手が大体いつも勝手に一人でしゃべっている滝夜叉丸となるとなかなか難しいものである。しかし私のおだてが効いたらしく滝夜叉丸のほっぺたがほんのり赤くなってきた。よしもう一歩!「いよっ滝夜叉丸日本一!戦輪を使わせたら右に出る者なし!」ここまで言ったところで滝夜叉丸が立ち上がった。さっきよりも顔を赤くしてわなわなふるえている。そして大きく息を吸い込んでこう叫んだ。「や…やめろ!これ以上私をほめるのは!」「そんな照れなくたっていいじゃない」「違う!照れているのではない!私が何故落ち込んでいるのかわからないのか!」いや知らねえよ。聞いてもだんまりだったじゃないかお前は。しかしこれだけ大きい声を出し始めたというのは立ち直ってきたということかもしれない。仏の心でもう少しつきあってあげよう。「何で落ち込んでるの?」「……それはだな…私は先程自分の美しさや完璧さについて考えていた…どうすれば私は更に完璧になれるのかと」仏の心と言った直後でアレだけれどもすごく聞きたくない気分になってきた。部屋に帰りたい。しかし滝夜叉丸は止まらない。「そこまで考えて気づいてしまったのだ。私は現時点で完璧すぎてもうこれ以上の進歩は望めないのではないかと」帰りたいどころか殴りたくなってきた。どうしようこれ。「そこでだナマエ!私がどうすればもっと完璧になれるのかを一緒に考えてくれないか!私とお前は友達だろう!」いつものように背中に薔薇をしょった滝夜叉丸が決めポーズをとりながら私を指差してきたのを見て私はにっこり微笑んだ。そして5歩ほど後ろにさがり滝夜叉丸に向かって全力で駆けていき、彼にラリアットをきめ、気絶した滝夜叉丸のおでこに「バカ」と落書きをして部屋に戻った。友達ってなんだろう…と考えながら。