最近友人の久々知兵助がおかしい。といっても奴は前からおかしかったが最近は以前にもましておかしい。
急に不機嫌になったり、かと思えばじっと物思いにふけったりため息をついたりもの言いたげな視線をちらちらよこしたり。私のいない所でやるのなら構わないのだが何故か私の目に入る所で色々とやるのだ奴は。正直言ってうっとうしい。よって最近様子がおかしいのは何故なのか聞いてみようと思う。事情によっては友人として力になれるかもしれない。力になれなかった場合はせめて私のいない所でやるように頼む事にする。奴が聞き入れなかった場合には実力行使もやむを得ないであろう。

「おい久々知」
「俺に近寄るなナマエ!」
「何故」
「今俺は無性にお前を殴りたい気分なんだ」
「ええー…」

最近久々知がおかしかったのはつまり、私のことを殴りたくて仕方がなかったからということなのだろうか。なんてバイオレンスな奴だろう。私が友人として久々知のことを心配している間こいつはずっと私を殴りたいという欲求を抱えていたということか。恐ろしい。

「久々知…豆腐に対して変な執着を見せていること以外はいい奴だと思っていたのに…」
「俺もどうしてこんな気持ちになるのかわからないんだ。ナマエを見ていると今まで味わったことのない感情がわいてきて…」
「とりあえず殴られる前に私は部屋へ帰るよ。…今までありがとう久々知。君の事は忘れないよ」

そう言って私はその場からすごい早さで走って逃げようとした。ところが久々知は地を蹴り高く飛び上がると私の目の前に着地して腕をつかんできた。唐突に忍者っぽい動きをしやがって。これだから勉強も実技もできる奴は嫌なんだ。てっきり殴られるのかと思った私は身構えた。が、いつまでたっても久々知は殴りかかってこない。

「…どうしたの」
「おかしい…ナマエに行ってほしくないと思って捕まえただけなのにナマエの腕にふれたら急に泣きたくなってきた」
「情緒不安定にもほどがあるだろ久々知…!」
「ナマエ、俺はどうしたんだろう?」

久々知は私の腕をつかんだまま本当にぽろぽろと泣き始めた。一体どうしてしまったのだろう。…こ、心の風邪とかいうやつか?とりあえず泣きやませようと私よりも大分背の高い久々知の頭を背伸びをしてなでた。すると奴はものすごい力で私を抱きしめてきた。背骨が。背骨が折れる。

「何故かはわからないがナマエにふれていると動悸がおさまらない。でも絶対に放したくない。放したら死ぬ気がする」
「いや、放して下さい…」
「ナマエ…俺の健康の為に、一生そばにいてほしい」
「ふざけんな」

久々知は目をうるませながらも真剣な表情で見つめてくる。こいつは何故ここまできて私に恋をしているという結論にたどりつかないのだろうか。おそらくそんなことも思いつかないくらい久々知にとって私がそういう感情の対象外だということなのだろうが私にしてみたら非常に面白くないことである。腹が立つので自分で気がつくまで黙っていようとぎりぎりと抱きしめられながらも私は堅く誓った。