先輩が卒業してから早いものでもう三年経つ。私も一昨年無事に学園を卒業して、今は城勤めのくのいちである。

私の所属していた作法委員会の委員長であった立花先輩はとても優秀な忍たまであった。
太い眉毛とサラサラの長い髪がチャームポイントである立花先輩のことが私はとても好きだった。
冷たいようで優しくて、隙がないようでいて少し抜けたところもある立花先輩。私はどうにか先輩に構ってほしくて、毎日のように先輩のそばに出没した。
後ろから抱きつこうとして素早くよけられて壁に頭をぶつけたり、正面から正々堂々と抱きつこうとしてやっぱりよけられて地面に顔からめりこんだり。
食事をしている先輩の体と腕の間に頭をつっこんだり。それでも全く動じずに食事を続ける立花先輩が本当に本当に好きでたまらなかったのだ。
先輩と同じ組の潮江先輩には神出鬼没の変態くのたまと呼ばれてドン引きされていたが、立花先輩はいつも壁に頭をぶつけて苦しんでいる私や地面にめりこんでいる私に、
「ナマエ、今日の放課後は委員会があるからな」とか、
「地面にめりこむ瞬間のナマエの顔、花房牧之介みたいで笑えたぞ」とか、
余裕しゃくしゃくな反応を見せていた。何事にも動じない先輩。そんな先輩が動揺したのを見たのは先輩が学園を卒業する前日、私が先輩に告白をした時だ。
私が「せ、先輩はもうわかっていらっしゃると思いますが、私は立花先輩の事が好きです。大好きです。私が卒業したら結婚してください」と言うと、
先輩は石のように固まった。そして長い沈黙の後に、「…ナマエ…お前、私の事が好きだったのか…?」と言ったのだった。何ということだろう。
「い、今まで何年も先輩に求愛行動をしてきたじゃないですか」と少し恨みがましい口調で責めたところ先輩は少し赤くなって、
「や、や野生動物じゃないんだから言葉で気持ちを表すということをせんか。阿呆。」と返してきた。
どもる先輩なんて初めて見たと一瞬キュンとしたが今はそれどころではない。
「…それで告白のお返事は…?」
「わかっている、ちょっと待ってくれ今頭の中を整理するから。」
先輩はあーとかうーとか言いながら悩み始めた。そして意を決したように、
「お前の気持ちはわかった。だが私もお前もまだまだ半人前だ。せめてナマエが学園を卒業して一人前のくのいちになってからまた考えよう。
実は私もお前の事が好きと言えないこともない。」
と非常にあいまいな返事を下さったのだった。しかしその時の私にはその答えで十分で、絶対に一人前のくのいちになろうと天にも昇る気持ちで誓ったのだ。
そしてあっという間に時は過ぎ、私は毎日なんとかくのいちとして頑張っている。数人だが後輩もできた。
そろそろ先輩が私を迎えに来てもいい頃だと毎日うきうき待っていたのだが先輩は一向に迎えにこない。
噂では私の働く城から山ひとつ越えたところにある城で出世頭として働いているらしい。さすが先輩。
だがひょっとしてもしかすると先輩は私の事を忘れてしまったのだろうか?
最後に先輩と会った日、つまり先輩が卒業した日に「ではまたな」と言って颯爽と去って行く後ろ姿がまだ私の目には焼き付いているというのに。
いっそのこと私が先輩を迎えに行ってしまおうか。山を越えて。そういえば先輩は一言も迎えに行くとは言わなかったのだ。
つまり私から会いに行ってもいいということではないのか?そんなことをもやもやと考えながらも長期休みがとれた私はとりあえず実家に戻った。法事があるのだ。
そして久しぶりの実家でうだうだしている私のもとへなんということだろう立花先輩から文が届いたのだった。
あわてて文を読んでみるとたった数行、「長い休みがとれたので実家に戻っている。桜の花がきれいだ。見に来い」と書いてある。
これはもう嫁にこいということですね立花先輩。わかりました山を越えて嫁ぎに行きます。
そうして私は慌てて荷物をまとめて先輩の家へ向かった。待っててください立花先輩。大好きです。


君が行き
日長くなりぬ
山たづね
迎えか行かむ
待ちにか待たむ