鎖で縛ってくれないか 





※ポリトポ。人名使用。史実を連想させる表現を含みますが、国家批判などの意図は一切ありません。





「オレ、このまま消えるんかな」
 唐突にぽつりと呟かれた言葉に、トーリスは顔を上げた。クッションを抱きしめて、不安そうな表情のフェリクスを見つめる。
「何言ってんだよ、フェリクス。そんな訳ないだろ」
「そんな訳あるし。最近、周りの国々が不穏なんはもうわかっとる。…トーも気付いとるんやろ?オレだってそんな鈍くないし」
「…」
 やはり気付いていたか。トーリスは苦々しい思いだった。できるだけその話題は口にしない様にしていたが、もう限界らしい。争いが避けられそうにないことは、トーリスにも十分わかっていた。
 それでも、トーリスは笑顔を精一杯作って、気休めを口にする。
「大丈夫だよ。確かに最近物騒ではあるけど、だからってフェリクスが消えたりする訳ないじゃないか」
 それが誰のための言葉なのかはわからなかった。不安がるフェリクスのためにも、直視できない自分のためにも思えた。
 しかし、フェリクスはいつもの笑顔を浮かべない。真剣な表情のまま、こう言った。
「当たり前のことやけど、オレは死んだことないから、死んだらどこ行くんかよくわからんし。まあ、オレが消えること自体はあんま怖くないんよ。オレが消えても、歴史には残るし、血は受け継がれる」
 けど、とその言葉は続く。眉を寄せて切なげな顔で、
「トーと一緒におれん様になるのは、怖い」
 フェリクスはそう言った。くしゃり。心臓を握り潰される音がした。
 トーリスは、フェリクスに手を伸ばした。触れた体温がたまらなく愛しい。ソファーに座る彼の脚に顔を埋める。
「…まだやらなきゃいけないこと、たくさんあるよ」
「うん」
「家だってまだピンクに塗り替えてない」
「うん」
「まだおまえに俺の料理全部作ってやってない」
「うん」
「…一緒に、いたい」
「…うん」
 フェリクスがトーリスの髪を撫でた。普段の態度からは想像できないくらい、繊細なものを扱う様に。その優しさに、トーリスは泣きたくなってしまう。
 決して千切れない鎖があるなら、繋がれてもいいと思った。彼と離れるくらいなら、枷で縛られていた方がずっとましだ。
別離の足音は確実に近づいている。後を追えない苦しみを思うと、トーリスは自分が感情を持って生まれてきたことを深く後悔するのだった。



▼フェリクス×トーリス習作。ずっと書きたかった連合王国の二人。やっぱりフェリクスの口調がわからない。需要とか無視して供給を続ける。



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