ある愛の一節は 





※NLだけど相手出てこないし、主人公の名前も出てこないです。





 自分の字が好きだ。
 美しくも何ともないけれど、それは間違いなく自分の字だから。やや右上がりの癖のある私の筆跡は、母にも父にも似はしなかった。
 『字が自慢なの?』と、妹には笑われた。『字なんて、己の身体の一部でも何でもない。誇るのはおかしい』と。
 彼女は文明社会に生きる現代人らしく、連絡手段はほとんど電話かメールで済ませる。早くて便利だからだそうだ。
 私の場合は、必要性を感じない限り、できるだけ紙とペンを使う様にしている。電子メールは、早い上読みやすくて便利だけれど、何だか無機質で味気ない。愛想がない。便箋を選ぶ楽しみも、書き間違えた時の焦りもない。すぐにフォルダの中に埋もれてしまう。それは、あんまりだ。

 私には、中学卒業から文通している相手がいる。やり取りを始めて数年で、私は少しだけ字が綺麗に書ける様になった気がする。最初は不慣れでたどたどしかった文章も、今では迷う前に勝手にペンが便箋の上を走る。書き順にも厳格になった。
「よし、書けた」
 便箋を両手で持ち、文面に異常がないことを確認する。そして、切手を貼った封筒の中にしまった。ほっと息を吐き、椅子に座ったままやや後ろに伸びをすると、骨が軽く音を立てた。
 今や、私も彼も大学生。経済的にも時間的にも余裕が持てる様になった私は、長野に住む彼に会いに行くことにした。
 机の脇に置いてある、丁寧な筆致で書かれた彼の手紙を見る。この字の様に、彼も立派な青年になっているに違いない。
 私は微笑み、手紙をポストに投函するために部屋を出た。




▼掌編習作。主人公の名前出せなかった…orz
地味に続くかもしれない。珍しくNL書いたんだぜ。



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