不道徳な香り 






風が匂いを運んでくる。僕が大嫌いで仕方ない、あの匂い。
「ピッカ!!」
「ああ、わかってる」
僕は顔をしかめて頷いた。別にピカチュウに非はないけれど、この匂いを嗅ぐと、どうしても不機嫌になってしまう。
目を閉じて耳を済ませば、ザリ、ザリと地面を踏みしめる音がした。近付いてくるその音が、僕をますます不快にさせる。
やがてその足音は途絶え、僕は目を開けた。そこには、不敵に笑うグリーンの姿。僕は思いっきり眉間に皺を寄せる。
「よっ、レッド。元気かぁ?」
「…」
グリーンの問いかけに、そっぽを向く。口なんか利きたくもなかった。
「何だよ、その態度。そうつれなくすんなって」
グリーンは気にした素振りもなく、洞窟の中に入ってきた。あの嫌な匂いも一緒だ。足元のピカチュウも、少し嫌そうな顔をしていた。
「やめろ、来るな」
「酷ぇなぁ。せっかく、会いに来てやったのに」
僕は言葉で抵抗するけど、グリーンは無視して僕に近付いてくる。そして、いきなり僕を抱き締めた。
「!!」
大嫌いな匂いが、僕の鼻孔を突き抜けていく。グリーンがつけている香水と整髪料と、その他人工物特有の嫌な匂い。
「…臭い。香水もワックスも、つけてくるなって言ったよね?野生ポケモンが逃げるから」
「いーじゃん。その方が好都合だし」
グリーンは気にも留めない。何が好都合なんだと胸中で毒づく。
不意に、甘ったるい香りが僕の嗅覚に引っかかった。これは女物の香水の匂いだろう。僕は眉間に皺を寄せたまま、グリーンを咎めた。
「グリーン。遊ぶのも程々にしなよ」
「あ?」
「惚けるな。…よりによって、グリーンなんかに惚れるなんて、可哀想な(ひと)だね」
僕の指摘に、グリーンはあどけない笑みを見せた。
「おまえ、すげぇな。ポケモンかよ。仙人にでもなるつもりか?」
「話を逸らすな」
「大丈夫だって。オレが好きなのは、おまえだけだから」
「………」
僕は閉口した。グリーンは笑っている。よくもまあ、そんなことが言える。
「あ、そうだ。これ、当分の食料と薬な」
グリーンがトートバッグを差し出す。中には、食料品やポケモン用の薬などがあった。衣類も数着ある。僕は顔を顰める。
人工物なんて嫌いだ。生活に必要最低限のものは仕方ないけど、それ以外のものには触れたくないし、見たくもない。
なのに、何度拒否しても、グリーンは食料を届けに来るし、香水や整髪料も使うのも止めない。本当に、本当に、最悪な奴だ。
「グリーンも、グリーンの匂いも、大嫌いだ」
鼻をくすぐるグリーンの匂いに、僕はそう言った。グリーンがまた笑う。
「おまえって、本当に素直じゃないのな」
余裕綽々といった様子の笑顔。その笑みがやけにムカついたから、僕はグリーンの唇に噛みついてやった。







不道徳な香り
(香水ワックス
匂い)









▼twitterの某ボットに触発されて。グリレも嫌いじゃないです。





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