償いの朝焼け1 





何処までも広がる荒野。立ち上る陽炎。針の様な日差しに、彼らの気分は頭上の空の如くブルーだった。
「…暑い。暑いわ、本当に…」
リタが呟いた。後ろにいたカロルも声を荒げた。
「あーつーいー!!ねえ、もう帰ろうよ!!」
「情けないわねぇ、少年。まだ砂漠に入ったばかりじゃない」
傍らでレイヴンが華麗にバク宙して見せた。エステルが、
「“し、心頭滅却すれば………火もまた涼し”、です」
「素材が見つかるまで我慢よ」
そう言ったジュディスも、この暑さに相当参っている様だった。パティが項垂れながら言った。
「一体、何処にあるのじゃ………」
「フィールドを探しても何処にもなかったしな」
ユーリが汗を拭って言った。そんな面々に、ユーリの傍らにいたフレンが振り返った。
「きっともう少しだから。みんな、頑張ろう」
爽やかに笑うフレン。この炎天下、暑苦しくならないその笑顔。しかし───
「見て、敵だよ!!」
カロルが声を上げた。
現れたのは盗賊。飼い慣らしたらしい魔物も一緒だった。一瞬にして、フレンの表情が笑顔から真剣なものに変わった。
「いくよ、みんな!!」
「おう」「ワンッ」
傍らにいたユーリとラピードと共に、フレンが駆け出した。
「戦わなくていいの?」
カロルが、残りの面々を見上げた。レイヴンがフレン達を見ながら告げた。
「大丈夫じゃないの?数も多くないし………何より動きたくないわ、おっさん」
「………だよね」
カロルがやや虚ろな目で頷いた。
そんな面々に、エステルが言った。
「どうやら終わったみたいですよ?」
「早っ。流石ね。チョロ甘じゃないの♪」
一行がフレン達に歩み寄る。しかし、当のフレンは、剣の切っ先を盗賊達の主格に突き付けていた。手にした剣の如く、鋭い眼差しで告げる。
「………今回は見逃してやる。仲間を連れてさっさと逃げろ。もう二度とこんな真似をするな」
倒れ込んでいた盗賊は、こくこくと頷き、仲間を連れて去っていった。傍らのユーリが訊ねた。
「捕まえなくていいのか?えらく寛大なこったな」
「………こんな熱い炎天下の中、賊を引き連れていく訳にはいかないだろう。まだ目的を果たしていないし、みんなもいる」
「そりゃそうだ。おまえもやっとオンとオフの区別がつく様になったか」
からからとユーリが笑った。しかし、フレンは何も言わない。ただ自分の愛剣を見つめていた。
「…フレン?」
違和を感じてユーリが名前を呼ぶが、フレンは応えなかった。剣を鞘にしまい、息を吐いた。───その様子は、愁いを帯びた静謐を孕んでいて。
ユーリがもう一度、名前を呼ぶべく息を吸うが───
「フレン!!」
───エステルの方が早かった。満面の笑顔で、背後からエステルがフレンを呼んだ。手招きまでして、彼を己の下へと呼び寄せた。
「どうしたんですか、エステリーゼ様?」
「見てください!!フレンがさっき倒した魔物が、素材を落としていったんですよ!!」
「え!?本当ですかっ?」
「ええ。これでやっとここから出られますよ」
「お手柄だね、フレン!」
「いやそんな───」
暑い荒野からの脱出を喜ぶ仲間達に囲まれ、フレンははにかんでいた。先程の愁いに満ちた空気はまったく感じられない。
(………)
ユーリは、その様子を静かに見つめていた。
フレンは、きっと今、自分の内に何か問題を抱えているのだろう。それが、彼の腕におさまるものならいい。しかし、今回はそうではないとユーリの勘が警鐘を鳴らす。
ユーリは、真っ青な空を仰いだ。





next 

 



[目次]
[しおりを挟む]



main

Top

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -