その嘘、信じてもいいですか 





※キリ番リクエスト。野分様。「両片思いのユリフレ」です。



 議会に提出するための法案を纏めた書類にどうしても必要な資料があったため、フレンは城内の図書室からいくつか資料を借りてきた。現在の法改正のためには過去にどんな法が制定され、棄却されたのか前例を学ぶ必要がある。過去の帝国法が書かれているずっしりと重い古びた書物を片手で何冊も抱えながらドアノブを捻ると、ふわりと風がフレンの頬を撫でた。窓を開けて出た覚えはないので少しだけ驚いて顔を上げてみれば、窓が開いていてそこから入ってくる風にカーテンがさわさわと揺れていた。そしてデスクワーク用の机に座る幼馴染みに、開け放してある窓の理由と原因を即座に理解した。
「なんだ、来てたのか」
「なんだって何だよ。せっかくおまえに会いに来てやったのに」
「不法侵入してくれって頼んだおぼえはない。まったく、住居侵入罪の常習者を幼馴染みを持つと大変だ。うかうか図書室にも行けやしない」
 皮肉を言いながら分厚い本を執務用の机に置く。一応丁寧に置いたつもりなのだが、その本のあまりの重さにどさどさっという音がした。ユーリが驚愕と嫌悪をない交ぜにした表情をする。あんな本を読むなんてあり得ないと顔が語っていた。
 ユーリの相変わらずの本嫌いに内心苦笑しつつ、フレンはティーセットの入っている戸棚に手を伸ばした。
「で、何の用だ。紅茶ならあるけど、あいにくこないだ君がうまいと絶賛していたあのマドレーヌはもう切らしてる」
「いや、ちょっと寄っただけだから。すぐ帰る」
 マドレーヌがないと聞いて少しだけ残念そうにしつつも、ユーリはひらひらと手を振ってそう言った。そうか、とフレンも返事して、ティーセットを戸棚に戻していく。
 ユーリが口を開いたのは、フレンが白い磁器のティーポットを戻そうとした時だった。
「今日、口説きにきたんだよ」
 ピタ。美しい薔薇が描かれたポットを戸棚に戻す手が止まる。思わずユーリの方を向きかけ、慌てて視線をポットに戻した。すぐ何事もなかった様に、ポットを元の位置に戻して戸棚の戸を閉める。動揺を極力隠した声音で問う。
「ふーん……誰を?」
「おまえ」
 今度は動揺を隠しきれなかった。目を見開いてユーリを見る。彼の顔は至って真剣に愛の言葉を紡ぎ続ける。
「ずっとずっと好きだったんだ。おまえしか見てない」
「……」
 フレンは返事ができなかった。いや息さえもまともにできそうになかった。ユーリの告白にどうしたらいいのかわからなかった。だからただ口を噤んで、戸棚に並べてあるティーポットを見続けた。そのせいで沈黙はしばらく続いた。やがてフレンがティーポットを見続けることが心理的に難しくなってきた頃、ユーリがふっと笑った。
「……なんてな。冗談だよ、冗談。んなわけねーっつの」
 そう軽く自虐し、それまで腰掛けていた机から立ち上がる。ずっと戸棚を見ていたフレンに笑いかけてきた。
「フレン?引いたか?」
「ドン引きだ。ちっとも笑えやしない。ナンセンスだね」
 戸棚からユーリに向き直り、いつも通り憎まれ口を叩く。そう、いつも通りの。
「だな。自分でも引くわ。マジでありえねー」
 ユーリは今回ばかりは素直に自分のセンスのなさを認めた。苦々しげに笑って頬を指で掻く。
「冗談もいい加減にしてくれ。君の面白くない冗談に付き合ってる暇はないんだからな」
「へいへい。そりゃすみませんでした」
「わかったなら、帰ってくれ。まだ仕事が残ってる」
 フレンは机の前の椅子に腰掛けて、しっしっと手を振った。あからさまに不服そうにするユーリを無視して、書類と本に手を伸ばした。
 もうフレンがユーリの相手をする気がないとわかると、彼は窓枠に身を乗り出した。元々長居をするつもりはなかったのだから、そろそろ帰る時間だ。
「じゃ、オレは騎士団長の邪魔しちゃ悪いんで、そろそろ帰りますわ」
「ああ。僕の悩みの種が増えるから、くれぐれも騎士に見つからない様に」
「頑張ります」
 じゃ、と軽く手を振った後、ユーリは軽い身のこなしで木の枝に飛び移った。そのフットワークを見る度にフレンは軽業師になればいいのにといつも思う。
 ユーリは窓を閉めずに行ったから、室内には微風が吹き込んでくる。古ぼけて茶色くなった本のページがそよそよと揺れる。フレンは肘をついて目を閉じ、小さく息を吐き出した。
 好きだと告白されて返事ができなかったのは、それが単純に嬉しかったからだ。息さえも詰まるくらいに嬉しすぎて、思考や感情等の諸々がフリーズしてしまうくらいに。
 それが冗談だと言われた時になってやっとフレンの脳や肺は正常の機能に戻り始めた。なんて報われない。
 好きだなんて言葉をジョークとして言った彼を残酷だとは思わない。むしろフレンはその言葉が嘘なのかどうかを疑っていた。いくら彼でも冗談で好きだなんて言わないだろう。
 ――もし、彼が嘘ではなく本気でフレンを好いているんだとしたら。そう想像するだけでクラクラする。また呼吸が止まってしまいそうだ。
 今度会った時は問いかけてみよう。そして先ほど言えなかった言葉を返すのだ。
 そのために今度彼が来る時までには、ソディアに茶菓子を買ってきてもらうつもりだ。できれば、前回彼に振る舞った時に甘いものにうるさい彼がうまいと頬張っていたあのマドレーヌを。



▼野分様のリクエストで、「両片想い」です。ええ、両片想いですよ、一応。…すみません。エイプリルフール(過ぎてるとか気にしない)なので、勝手に嘘も絡めてしまいました…。ネタはフォロワーさんからもらいました!
約三カ月もかかってしまいすみません。ご要望に添えたかどうかは謎ですが、気に入ってくださると幸いです。リクエストありがとうございました!

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