甘すぎた愛の行方 





※キリ番リクエスト 蜜蜂様   「『博愛主義者の煩悶』の続編」とのことで。





甘いオレンジの香りが鼻孔を擽る。ほんのり橙に染まったケーキをフォークで口に運んだエステルは、その美味しさに思わず目をみはった。
久しぶりにユーリとフレンの休日が揃ったので、隣の部屋に住む少女・エステルとリタを自宅に招いて、ユーリ手製の菓子を振る舞っていた。作ったのは、オレンジシフォンケーキ。しっとりしたケーキは、口に入れるとフワフワで、エステルが持参した紅茶との相性も良い。
しかし、そのケーキの作り手であるユーリは、席につかず壁にもたれかかってシフォンケーキを食べている。その表情は、眉間に皺を寄せ、やや不機嫌そうだ。理由は、今フレンとエステルが交わしている会話の内容。
「フレンがお付き合いしているその女性は、映画が好きなんですね?」
手を合わせてエステルが訊いた。その瞳は爛々と輝いている。
「ええ、まぁ」
フレンが後頭部に手をやり、照れくさそうに笑う。ふにゃりという擬音がつきそうな、だらしない(ユーリにはそう見えた)笑みだ。
どういう訳か、ここ一時間くらいはこの話だ。事の発端は、年頃の娘らしく恋愛に興味津々なエステルが、3人にそれぞれ色恋沙汰について訊いたためだ。ユーリとリタは適当に答えてはぐらかしたが、フレンは素直に交際している女性がいると告げた。するとエステルはキラキラとした目の色で、その女性のことを根掘り葉掘り訊くのだった。フレンも、律儀にその質問に答えている。
正直、ユーリにとっては苦痛だった。何が悲しくて、惚れた相手が語る惚気話なんて聞かねばならないのか。一応、同居人というポジションに不服はないが、ユーリも人間だ。嫉妬心が全くない訳ではない。フレンが真にその女性を恋い慕っていないというのなら、尚更。
(鈍感、朴念仁、天然たらし)
胸中で毒づきながら、シフォンケーキにがっつく。オレンジジュースで拵えたそれは甘くて美味しいはずなのに、味をほとんど感じなかった。
「でも、意外よね」
それまで静かにケーキを食べていたリタが、口を開いて話に割り込んできた。フレンとエステルがそちらを見る。
「あたしはてっきり、あんたとユーリが付き合ってるんだと思ってた」
「なっ…!?」「ぶっ!!!」
リタのとんでもない爆弾発言に、フレンが驚いてカップを揺らして紅茶を零しそうになり、ユーリが口の中のケーキを噴き出しかける。リタは汚いわねとユーリをジト目で見たので、ユーリは口元を拭って誰のせいだよと睨み返した。
「い、いや、リタ…僕とユーリは、どっちも男だよ」
「知ってる。でもそれが何か?自然界にも同性同士のつがいは、たくさんいるわ。珍しい話じゃないでしょう」
ケロリとそう切り返した彼女は、至極ありふれた話だとでも言う風だ。追い討ちをかける様にエステルが微笑む。
「古代では、むしろ、同性愛こそが人間らしい本当の愛だとされたみたいですね。ロマンチックです」
エステルはにっこりとそう笑う。思わず、ユーリとフレンは顔を見合わせた。だが、目を合わせた瞬間、フレンが視線を逸らす。その顔が赤く見える理由を、ユーリは自惚れだと決めつけた。

「…別に、そんなんじゃねぇよ」
どこか冷たくてドライな声がした。手元の皿に残っていた最後の一口を平らげ、フォークと一緒に流しに置く。
「金がねぇから、一緒に住んでるだけ。ただのルームメイト。…必要があれば、すぐにでも出ていくさ」
「え?」
これにはフレンが驚いた。小さく声を漏らし、開いた瞳でユーリの背中を見る。
「フレンも、卒業して就職すれば収入も安定するし、結婚も視野に入る。いつまでも男二人で暮らせる訳ないのはわかってる。…心配すんな、その時までには、身の振り方考えとくから」
「ちょっ…ユーリ!?」
エステルが名前を呼ぶが、彼は応じない。冷めた態度のまま、背を向けて、リビングを立ち去った。

バタンという音の後、フレンとエステルは呆然としていた。特にフレンの方は強く衝撃を受けた様で、皿の上にあるシフォンケーキを見つめて、小さくユーリと呟く。
「結婚なんて…考えてなかった」
俯くフレン。それを、エステルが心配そうに見つめる。
そんな彼に向けて、リタはまたしてもとんでもないことを口にした。

「あんた、ユーリと結婚しなさいよ」
「…は?」
唐突に降ってきた二度目の爆弾に、フレンは思わず面食らう。エステルも驚き、リタにその真意を訊ねる。
「リタ?それはどういう―――」
「どうもこうもないでしょ。そのまんまの意味」
答えて、リタがフォークを軽く振り回した。彼女の言葉に、フレンの思考が真っ白になっていく。
「あいつも、いつまで片意地張ってるのよ。バカみたい」
リタは、苛立ちをぶつける様に、自分の皿に残っているケーキにフォークをぶっ刺した。綺麗なオレンジ色に染まっているケーキは、まだほとんど残っている。
「まったく。このケーキ、甘過ぎて食べれたもんじゃないわ」
毒づき、紅茶を啜った。
フレンへの愛情がたっぷりと注がれたそのケーキは、リタが口にするには少し甘過ぎた。





▼蜜蜂様からのリクエスト文でした。リクエストをお受けしてから三か月も経ってしまい、誠にすみません…スライディング土下座でお詫びしたいです。
しかもこんなに長々と…ケータイ向けにしては長すぎですよね…。
こんな駄文ですが受け取ってくださると幸いです。リクエストありがとうございました!



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