A stalking-horse 





※マイソロ3設定。某スキットネタより。甘め。





バンエルティア号のとある一室。いつもはユーリ達男女4人で共有している空間に、女性陣はいなかった。ロックスによる計略により、増えてきた体重を落とすため、修行に出ているのだ。
これは二人が久々に睦み合うまたとない機会だが―――予想外の事態となっていた。
「………」
フレンは不満そうに、ユーリの肩にいる生き物を見つめた。その生き物は、全身がもふもふの毛に覆われている。
「クィッキー?」
フレンの視線に、その生き物───クィッキーが首を傾げた。ユーリが、クィッキーを睨む様に見つめるフレンに目を丸くする。
「どうした、フレン?そんな怖い顔でクィッキー睨んで」
「…何でここにいるんだい?」
フレンは、拗ねた様にそう言った。クィッキーは、甘える様にユーリの頬に擦り寄っている。
「まるで、ここにいちゃ悪いみたいな言い方だな」
「別に。…でも、クィッキーにはメルディがいるだろう?彼女のところに帰らなくていいのか?」
唇を尖らせながら、フレンが言った。拗ねた様なこんな表情は、元々童顔な彼を更に幼く見せる。
「ん、ああ。なんか、妙にコイツに気に入られちまってな。今日は、メルディがキールの手伝いするから、預かっててくれってさ」
「………」
フレンは、それを聞くとつまらなそうにそっぽを向いた。ユーリは、それが面白くて、表情には出さずに胸中でくっくっと笑った。
「…クレアに預かっててもらえばいいんじゃないのか。彼女には、なついてるだろう?」
「今日は、街まで買い出しに行くってさ」
「…ヴェイグは」
「ティトレイと稽古してるぜ」
「………」
そっぽを向いたままのフレン。その表情を覗き込む様に、ユーリはソファーから身を乗り出した。
「…まさか、アスベルに預からせる気じゃないだろうな?職権濫用だぜ、隊長殿」
「…わかってる」
拗ね切った声音で、フレンが肯定した。ユーリは、自分の膝の上に移動したクイッキーを抱え上げる。
「ま、いいだろ、たまには。オレら、今日は暇だし。メルディが戻るまでなんだからさ」
「クィッキー♪」
嬉しそうにクイッキーが鳴いた。反対にフレンは、ますます膨れっ面になった。
(良くない!!…久々に二人きりだと思ったのに………これでは、エステリーゼ様達が帰ってきてしまうじゃないか…!)
心中で毒づき、フレンはクイッキーを睨んだ。すると、クィッキーはそれが怖かったのか、ユーリのはだけた胸元から服に潜り込んでしまった。
「んっ、うおっ………な、なんだよ?くすぐっ………ちょっ、おま、どこ入って───」
「っ!?」
ユーリの服の中を縦横無尽に蠢くクィッキー。それがくすぐったいのか、声を漏らすユーリに、フレンはどうしようもなくなってしまった。
「や、止めろって、な───うおっ!?」
「………」
ユーリの腕に縋り、胸に顔を埋めたフレン。ユーリは目を丸くする。
「ど、どうしたんだよ、フレン?」
「…ユーリ」
小さな声でフレンはユーリを呼んだ。クィッキーは服から出てきて、ソファーの肘当てでその様子を首を傾げて見ていた。
「…キスしたい」
「は?」
フレンの小さい呟きに、ユーリは、ぽかんとした。
「今からかよ?…クィッキーを返してからでも───」
「いやだ。今がいい。今からしたい」
「………」
フレンから、いつになく積極的な言葉が出た。ユーリは、困り果ててクイッキーを見る。
「…こいつ、どうすんだよ」
「他の人に預ければいい。適任者ならいる」
フレンはそう言って、ドアに歩み寄り、扉を開けた。すると───
「きゃっ」「うわっ」「うっ…」「やっ…」
部屋の中に倒れ込む女子4人。その様子にユーリは目を向くが、フレンは動じず、屈み込んで手を差し出した。
「やあ。大丈夫かい?」
「あ、あの、これはっ………」
床に倒れ込んだ女子の中の一人───ティアが顔を赤らめる。クロエが自力で素早く起き上がって手を振り、必死に言い繕おうとした。
「わ、私達は……別に、クィッキーが気になっていたとか、そういう訳では無くて、ただ、単に、その───」
「わかってるよ。偶然、僕がドアを開けた瞬間に転んでしまったんだろう?」
「そ、そう。ただ転んだだけなの!!」
膝をついた状態で、ティアが必死で頷く。
「普通、ドアが開いた瞬間に、4人同時に転ぶかぁ?どんな確率だよ」
ユーリがボソリと呟くが、それに対しフレンは、威圧感のある笑顔で首を傾げた。
「ユーリ?何か言ったかい?」
「…何でもないです」
さすが、ガルバンゾ国騎士団隊長と、心中で称賛を送りながらユーリは首を振った。フレンには逆らえない。
それにフレンは何事も無かった様に、女の子達に向き直った。一人一人に手を差しのべる様は実に紳士的だが、ユーリはその仮面の下の正体を先ほど再認識したので、性悪のぺてん師だと思った。
「じゃ、じゃあ、私はこれで───」
「待ってくれ」
足早に去ろうとするクロエを、フレンは呼び止めた。ソファーにいるクィッキーを抱えて、先ほど転けていたコレットに渡す。
「わ、わあ………」
「メルディからユーリが預かったんだけど、彼じゃ面倒みきれなくてね。僕に頼ってきたんだけど、僕も動物には詳しくないし………良かったら、メルディがキールの手伝いをしている間、預かっててくれないかい?君達なら、万事に粗野で乱雑なユーリと違って、安心して任せられそうだ」
フレンはそう言って微笑んだ。ユーリは何を白々しいと思ったが、口に出せばこの後が恐ろしいので黙っていた。
プレセアは、コレットの腕の中のクィッキーが首を傾げた。
「クィ?」
「今からは、私達が預かるからね。よろしくね、クィッキー」
「クィ?クィッ?………クィッキー♪」
どうやらクィッキーも、コレット達が気に入ったらしい。コレットの腕に擦り寄り、クィッキーが笑った。
「で、では、責任を持って我々が預からせてもらう」
「ああ。よろしく頼むよ」
「フレンさん、ありがとうございます」
少女達は笑顔で部屋を出て行った。ドアが閉まるのを見た後───フレンはソファーに舞い戻った。その表情は、先ほど少女達に向けていた爽やかな笑顔とは違い、蕩け切った様な甘さを含んでいた。
「これでいいだろう?」
「良くねぇよ。あれじゃ、オレの信用ガタ落ちじゃねぇか」
そう言うユーリも、満更ではない様に笑っている。フレンはユーリに抱き付きながらこう言った。
「構わないだろう。他の誰も君を信じなくたって───僕だけは君を信頼しているんだから」
「言ってること、無茶苦茶だぜ?」
ユーリが笑いながら肩を竦めた。
「君がそうさせるんじゃないか。…責任取ってくれ」
笑顔でフレンがそう言った。ユーリも笑って、フレンを抱き締めた。
「わかったよ。ったく…」
ユーリは腕の中に収めたフレンに、気付かれない様に笑った。
本当は、忙しいフレンの気を引きたくて、進んでメルディからクィッキーを預かったのだということは、誰にも内緒。









▼pixivに掲載していたものです。自分にしては珍しく甘め。甘め書いてると、こっちが恥ずかしくなることってないですか…?///// 



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