博愛主義の弊害1 





※現パロで、Y→F。モブキャラ出てきます。










「…難しいよ」
フレンは、悩みながらそうポツリと呟いた。こちらの様子なんて蚊帳の外。ソファーの上で膝を抱え、ぼうっと思案の湖を泳いでいる様だった。
オレはその様子を菓子を作りながら見ていた。生クリームを泡立てる手首は動かしながら、目線は消沈したフレンに向けていた。
「あんま考え過ぎるなよ。おまえは悪くないだろ?」
「…じゃあ誰が悪いって言うんだ」
「相性」
オレはそう言って、真っ白なクリームに指を突っ込み、舐めた。硬さも甘さも文句ない。我ながら上出来だ。
「………その理屈で言うと、僕は全ての女性と相性が悪いってことにならないか?」
「そりゃまたブッ飛んだ話だな。たかが20数人にフラれただけだろう?なのに、全ての女と相性悪いなんてことになるかよ」
「………やっぱり僕に原因があるんだ。じゃなきゃ、こんなにたくさんの女性に嫌われる訳ない」
「………」
オレは口をつぐんだ。フレンは俯いて、再び思案の湖に飛び込んだ。
そもそも、何故コイツがこんなに悩んでいるのかというと、それは数時間前に女に別れを告げられたからだ。しかもメールで。慌ててフレンは電話をかけたが、拒否されており繋がらず、メールも返ってきた。流石にここまで周到にされると、家に行くという選択肢なんて消え失せた。それ以来、フレンはずっと思い悩んでいる。
フレンはモテる。バレンタインデーなんか、フレンの周りは、男の嫉妬と女の小競り合いで、戦場と化すくらいにモテる。
そりゃ、白馬の王子様伝説を地で行く男だ。顔はいいし、背も高いし、スポーツもできて頭も割りにいい。性格は優しくて真面目で誠実。紳士という言葉がよく似合うコイツがモテるのは当然だ。
だから、女に言い寄られることも多い。しかし───。
オレが薄黄色のクリーム状の液体をかき混ぜていると、フレンが顔を上げた。
「僕の人格に何か問題があるんだろうか………ユーリはどう思う?」
「あ?おまえの人格?」
「ああ。怒ったりしないから、僕の欠点を挙げてくれないか」
「………」
オレは手を止めた。代わりに、言われるがままに、自分なりにフレンの欠点を挙げた。
「まず、頭が固くて融通が利かないとこな。四面四面。そういうの、女はちょっと嫌かもな」
「…君に女性心理を鑑みる能力があるとは思えないが───そうだな。君に散々言われてきたから、それは自覚している」
「だったら直せよ。その方が周囲のためになるぜ?」
「悪いがこれは譲れない。人には個々に生まれ持った気質がある。僕の場合はこれがそうだ。…悪いものを良いと言う気はない」
「そうかよ」
フレンがピシャリと言い切り、オレは小さく苦笑いした。
「それから?」
「あー………綺麗好きなのはいいけど、下手すると潔癖に見られるんじゃねぇの?潔癖の男は総じて嫌われるぜ」
「…そんなつもりはないんだけどな」
フレンは俯いた。オレは首を振った。
「いや、おまえはそうでも相手がどう取るか、わかんないだろ」
「そうだけど…」
「あと、たまに無駄に大胆なとこ。おまえ、猪突猛進、無鉄砲なとこあるだろ?」
「………」
フレンは困り切った顔で途方に暮れた。しょぼーんと落ち込んだその様子は、見ていて可哀想になった。
ラピードがオレを見上げて軽く吠えた。“言い過ぎじゃないか”と言った様に聞こえ、オレは再び口を開いた。
「…それと、もう一つだけ。おまえの一番悪いとこ、見つけた」
「何だい?」
あれだけ打ちのめされたのに、フレンは顔を上げた。元気こそあまりない、自分の短所はちゃんと受け止めようとしている。ある意味、勇敢だと言えるだろう。
「女運」
「………」
フレンは予想外の答えに、言葉を失った様だった。オレは作業を再開した。
「女難の相が出てると見た。全ての女とまではいかないが───少なくとも、おまえが付き合う女に、ろくな奴はいねぇよ。おまえ、昔ストーカー紛いのことされてたろ?」
「………でも、僕は───」
「だから、仕方ないんだって。………おまえの博愛主義は、もうどうしようもないだろ?」
「博愛…主義?」
フレンは目を丸くした。オレも目を丸くする。どうやら自覚がなかったらしい。傍らで伏せていたラピードが、呆れる様に鳴いた。
フレンは、誰に対しても一貫した態度で接する。それが男でも女でも、初対面でも友人でも犬でも、変わらない。───恋人も然り。
例えば、仲間内で過ごしていて、その場に恋人がいたとしても、平気で他の女と話すし、困っていたら助ける。それが恋人の女から見れば、デレデレしているとか、浮気心があるなんて思われるらしい。実際、そんな理由で既に2〜3人にフラれている。
別にオレは性差別主義者じゃないが、女というのは嫉妬深い生き物だと思う。束縛して、がんじ搦めにして、対象の自由を奪う。少なくとも、フレンと付き合った女は例外無くそうだった。
オレは型に流し込んだ生地を、予め温めていたオーブンに入れた。ボタンを押してから、ソファーに腰掛けるフレンの隣に座った。
「気にすんなよ。オレに言わせれば、相手の女に見る目がなかっただけだって」
「………」
フレンは目を伏せた。おそらく、今まで付き合ってきた女を悪く言われるのが、嫌だったのだろう。つくづく、コイツは人がいい。
「だいたい、ワガママだろ。『乙女心と秋の空』とはいうが、勝手に好きになって、勝手に妬いて、勝手にフッてさ。おまえが容姿や性格とか関係なく話しかけたから惚れたクセに、今度は自分だけ特別扱いして欲しいなんて、そんなのただのエゴだっての。…おまえの昔の女は特にそうだったよな」
「………」
フレンは、何も言わなかった。






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