ナイチンゲールの赤い薔薇 





※懲りずにヤンデレッド。果てしなく報われない片思い。赤→響。微グロ?










恋をすれば幸せなんて、誰が言ったんだろう。もしそんな台詞を本気で口にする人がいたら、今の彼の姿を見せてやりたいと思った。
「そんなことしたら駄目だって、いつも言ってるじゃないですか」
「………」
僕は手首に白い包帯を巻きながら、子供に言って聞かせる様に諭した。白い包帯が、血を吸って赤く染まる。
「…だって、こうしたら俺のこと見てくれるでしょ?」
レッドさんは、歪に笑った。その笑みに背筋の凍る様な気分がする。
「レッドさん、僕は───」
「わかってる。でも、どうでもいいよ。ヒビキが俺に構ってくれるんなら、それで」
包帯に滲む血を、嬉しそうに見る彼は、恋に狂ってしまった。狂わせたのは僕だ。
特に何かした訳じゃない。彼とポケモンバトルをして、僕が勝っただけだ。しかし、レッドさんは、勝った僕をかなり気に入ったらしい。
告白された。けれど、僕は断った。男同士っていうのが、嫌だった訳じゃない。僕には、恋や愛という感情が、まだよくわからなかった。わからないまま、彼と付き合うのは失礼だと思った。
「俺はそんなこと気にしないのに」
「…」
「けど、ヒビキが俺のこと好きじゃないんなら、仕方ないね」
「…別に、好きじゃないなんて───」
「少なくとも愛してはないんだから、俺にとっては同義語」
「…」
絶望した瞳で、彼は言った。しかし、すぐに口元に笑みを浮かべる。
「でも、知ってるんだ、俺。ヒビキは優しいから、こうすれば助けてくれるよね。いつでも俺のところに来てくれる」
レッドさんが嬉しそうに見つめた先には、血のついた剃刀。
レッドさんは、僕の返事を素直に受け入れてくれた。以後、何事もなかった様に接してくれた。
何も起こらなかったみたいに、また笑い合えるはずだった。
でも、そうじゃなかった。彼は水面下で壊れていた。
そのことに気付いたきっかけは、レッドさんのピカチュウに、元気がなかったから。心配になって、レッドさんに理由を訊いても、何も教えてくれなかった。
『何かを隠している』。そう確信した僕は、問い詰めた拍子に彼の手首を掴んだ。そして、気付いた。
「これ…」
レッドさんの手首に、真新しい切り傷が幾つかあった。即座に彼は手を払うけれど、僕の頭の中にはひとつの可能性が浮かびあがっていた。
「レッドさん…もしかして…」
「………ヒビキに好きになってもらえない俺なんて、生きてる意味なんてないだろう?」
そう自嘲気味に笑った彼の顔は、僕の心に痣を作った。
僕のせいで、レッドさんは狂ってしまった。故意ではない。だが、それが何の免罪符になるだろう?
僕が償いとしてできるのは、ひとつだけ。こうしてまめに彼の下を訪れて、彼が死なない様にすること。一人の人間を狂わせてしまった罪悪感が、僕を彼から縛り付けて離さなかった。
「…何で僕なんですか。僕、男ですよ。他に、もっと可愛い子だっているでしょう」
「君だけが、俺を助けてくれた。こうして手当てもしてくれる」
「………」
嬉しそうに答えたレッドさんの笑顔を見て、僕は口を噤んだ。
僕がレッドさんの傍を離れない限り、彼はリストカットを止めないことはわかっている。
けれど、他にどうしろというんだ。僕がレッドさんの下から完全に姿を消せば、今度こそ、この人は死んでしまう。僕のせいで、彼を殺してしまうことだけは、絶対避けたかった。
いっそ、彼の愛を受け入れた方がいいのだろうか。けれど、正直何をされるかわからない。怖い。なら、彼には悪いが、このままの関係でいる方が、僕にとって一番安全だと思えた。
不意にレッドさんが僕の手首を掴んできた。痛い。彼はカッターを見ながら言った。
「こうすれば、君が俺の下を離れなくなる。わかってたんだ。優しい君は、自分のせいだって気に病むだろうから。…これでずっと一緒だね」
彼はそう笑うと、手首を離してくれた。彼の笑顔は、美しかったけれど、とても歪んでいた。鬱血した手首を抑え、僕は恐怖と共に胸中で呟いた。






ナイチンゲールのい薔薇
(愛も恋も、なんてくだらないものなんだろう!)











▼すいません、ヤンデレッドさん好きなんです…。着想は、オスカー・ワイルドの「ナイチンゲールとバラ」から。厨二乙。
いい加減甘めの話書けよ、オレ…今のところシリアスか暗めしかないwwww







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