interdependence. 





これの別視点。赤響赤。ヒビキくんが病んでます。



カメックスの強烈な一撃に、その巨体は大きく傾いだ。
「バクフーン!!」
悲鳴の様に名を呼んで、僕は倒れた彼に駆け寄った。抱きかかえると、バクフーンは僅かに目を開けて小さく笑った。
「…っ」
また負けてしまった。勝てなかった悔しさと、ポケモン達への申し訳なさに、唇を噛み締める。そうしないと、涙を零してしまいそうだった。
しばらくして、小さく笑ってみる。バクフーンの瞳に、泣きそうな笑みが映った。それでも笑顔だ。大丈夫、笑える。自分に言い聞かせて、バクフーンをボールに戻した。ありがとうと礼を言うと、顔をあげる。
「やっぱレッドさん、強いですねぇ。また僕の負けだ」
頭に手をやりながら言った。レッドさんが僅かに目を眇めた。無理して笑っていると、気付かれているだろうか。でも、彼なら気付かないふりをしてくれる気がした。
「レッドさんって、すごいですよね。僕、尊敬します。ポケモンに信頼されてるし、優しいし、かっこいいし…」
お世辞じゃなくて、本心だった。どんなポケモンも従わせる絶大なカリスマ性を持っていながら、それでいて彼らを力で抑えつけるんじゃなくて、『信頼』により動かしている。それがどれだけ難しいことなのか、僕もわかっていた。実際、僕もバクフーン達には信頼してもらっているけれど、レッドさん達みたいな、互いの思考を共有しているかの様なコンビネーションはまだできない。だから、やっぱりレッドさんはすごいと思う。
レッドさんが、僕の頭を撫でてくれた。嬉しい。けれど、その拍子に抑え込んでいた黒い感情が溢れ出しそうで、慌てて心に蓋をする。
彼に対する感情は、半分が憧れで、残り半分が好意。多分、恋慕に相当するものだろうと思う。
恋や愛なんて、僕にはよくわからない。仲のいいカップルは見た。互いの顔を見て、微笑み合う夫婦も見た。多分、愛し方って人それぞれで、価値観も違うんだろう。
それでも、この好意は少し異常だと思う。同性だとかそれ以前の問題で、黒くて得体がしれない。この感情をレッドさんにぶつける様なことがあれば、何か彼に危害を与えてしまう様な気がした。怖い。
さっきみたいに触れられると、もっと触ってほしくなる。彼がどこかを見ていると、僕だけを見て欲しいなんて思ってしまう。強烈で、乱暴な感情。
必死に抑えつけるけど、蓋はまだ閉まってくれない。気を逸らせようと、口を開いた。
「グリーンさんに、特訓お願いしてるんです。レッドさんに勝てないって相談したら、自分が相手になってやるって。かっこいいですよね、グリーンさん」
グリーンさんには、よくしてもらっている。最初はとっつきにくい印象だったけど、結構いい人だ。僕がレッドさんに負けて山を降りたのを見かねた彼が、自ら練習相手を買って出てくれた。彼はポケモンのタイプに偏りがないし、実際かなり強い。願ってもない申し出だった。最も、バトルであわよくば勝ってやろうというのが、真の動機らしい。
僕がグリーンさんの名前を口にすると、レッドさんは僅かに眉間に皺を寄せた。
「レッドさん?」
僕が名前を呼ぶと、赤い瞳がこちらを見た。
「…何でもない」
僕の視線に気付いた彼は否定した。そして少しだけ笑った。変なのと、釣られて僕も笑う。バトルの後の小さな幸せ。
相棒達には悪いけれど、本当は、彼に倒されることを、心のどこかで望んでいた。今日だって、負けることができて、少し安心しているんだ。だって、負ければまたレッドさんに会いに行ける。勝ってしまったら、きっと彼は何事もなかった様に消えてしまう。雪は融けたら水を残していくけれど、きっと彼は足跡すら残さない。そんなの嫌だ。
「グリーン…」
小さな声で呟かれた名前。その声を聞き逃さなかった。胸中で毒づく。
嫌だ。そんな言葉、聞きたくない。他の人の名前なんて呼ばないで。
もっと僕を見て、もっと僕に依存して。僕はレッドさんなしじゃ生きられないんだから。
「レッドさん、あの…」
「何?」
僕を見てほしくて、声をかけたけれど、言いたかった言葉は霧散してしまった。真っすぐな視線で見つめられると、いつも少し怯んでしまう。
「…いえ、何でもないです」
結局、こんなことしか言えなかった。
「気になる」
「レッドさんでもですか?」
意外だった。彼がポケモン以外の何かに関心を示すことなんて、とても珍しい。
「…あなたに勝ったら、言います。だから、それまで待っててください」
「…わかった」
今はそうとしか言えなかった。僕がレッドさんに勝った時は、きっとレッドさんが僕に依存し切った時だから。
早く僕に依存してください。もう我慢できないんですよ。僕以外の人を視れない様に、その赤い眼球をえぐり出したいとか、平気で考えちゃって。それくらいあなたが好きなんですよ?たとえば───。
黒い感情は、再び蓋をされ、続く言葉は途切れた。










▼病んだレヒビレが読みたくって書いたもの。ヒビキくんはピュアっ子だから、同性愛に偏見なさそう。そんな夢を見てる。








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