依存の愛 





※赤響赤。これのレッド視点。ヤンデレッド。





ぐらりと傾いたその巨体は、やがて音をたてて地に臥した。
「バクフーン!!」
悲鳴に近い声で、ヒビキがその名を呼んだ。駆け寄って抱きしめると、バクフーンが目を開けて小さく笑った。
勝負はあった。
「戻って、カメックス」
勝った僕は、ボールを翳してポケモンを戻す。ボール越しにかち合った視線に、小さくありがとうと呟いた。
「………」
ヒビキが僕と同じ様に、ポケモンをボールに戻す。しばらく小さく震えていたが、やがてにぱっと笑顔をこちらに向けた。
「やっぱレッドさん、強いですねぇ。また僕の負けだ」
明らかに無理をして作った笑顔で、ヒビキはそう言った。
可哀想だな、とは思ったけれど、ヒビキをそうさせたのは僕だし、そういう顔をしてくれないと少し困る。
だって、ヒビキが本当の笑顔を見せる時って、僕に勝った時だから。まだ負ける訳にはいかない。…少なくとも今は。
「レッドさんって、すごいですよね。僕、尊敬します。ポケモンに信頼されてるし、優しいし、かっこいいし…」
目を伏せたヒビキの頬が僅かに赤い。負けてあげられなかった代わりに、僕がその頭に手を置くと、ヒビキが嬉しそうにはにかんだ。
愛情や好意なんて、僕にはよくわからない。
けれど、この感情が、とても汚れていることだけはわかった。黒くて、澱んでいて、歪んだもの。そんなものを“愛情”と名付けていいのかわからないけれど、当てはまる言葉が他にないから、そう呼ぶことにした(僕、語彙力ないから)。
そして、その愛情はヒビキに向けられている(…ああ、うん、男だってことは、わかってるよ。でも、そんなこと関係あるの?)。
だから、決めた。ヒビキが僕に依存するまで、絶対負けないって。そしたら、ヒビキは僕に勝つまでここに来続けるから。
ただ、『絶対負けない』…これが存外難しい。来る度、ヒビキは確実に強くなっている。理由は…
「グリーンさんに、特訓お願いしてるんです。レッドさんに勝てないって相談したら、自分が相手になってやるって。かっこいいですよね、グリーンさん」
笑顔でヒビキはそう話した。僕の中の感情が、一層黒くなる。
ああ、駄目。全然駄目。他人の名前を平気であげられるうちは、負けてなんかあげられない。
僕しか見えなくなるまで、僕に完全に依存するまで、僕は負けられない。僕だけを支えにして、僕だけに縋り付いてほしい。僕は既にヒビキに依存し切っているんだから。
「レッドさん?」
僕の雰囲気を感じとったヒビキが、怪訝そうにこちらを見た。
「何でもない」
僕が嘘を吐くと、変なのとヒビキが笑った。
その澄んだ瞳は、何も知らない。僕の歪な感情も、黒い思惑も。
「グリーン…」
幼馴染の名前を小さく呟いた。
とりあえず、ヒビキが帰ったら、久しぶりに下山してみよう。グリーン、トキワジムにいるかな。いなくても、探し出して叩きのめすけど。グリーンは親切心でやったことなんだろうけど、ヒビキにちょっかいを出したのは事実だ。
「レッドさん、あの…」
「何?」
「…いえ、何でもないです」
泣き笑いの表情でヒビキは首を振った。
「気になる」
「レッドさんでもですか?」
「………」
僕が見つめていると、ヒビキは俯いて言った。
「…あなたに勝ったら、言います。だから、それまで待っててください」
「…わかった」
ヒビキは、この感情を受け入れてくれるだろうか。黒くて、歪で、汚れたこのどうしようもない愛情を。
早く、ヒビキが僕に依存し切って、僕しか見えなくなればいい。僕が既に陥っている淵に、君もおいで。

誘う声音は、今はまだ彼には聞こえない。



汚れていても、それが愛なら構わない。「頂戴?」



▼初投下がこれって…大丈夫か?
大丈夫だ、問題な―――(ry
…今、手元にあるのが、これくらいしかなかったもんで。



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