semisweet 





※バレンタインネタ。赤緑?





視界が霞む程の吹雪の中で、人影が見えた。はっきりとはしないものの、それが人であることだけはわかった。その人影は、こちらに向かってくる。目を眇め、あの挑戦者かと身構える。
「レッド」
こちらに向かってくる人影に、そう呼ばれ、落胆する。この声は、あの挑戦者じゃない。
「なんだ、グリーンか」
落胆を隠しもせず声に表すと、おまえなぁと咎められた。もうその時には、人影の姿ははっきりと見えていて、それが苦々しげな表情をしているグリーンであることはわかった。
「せっかくオレが食料を持ってきてやったのに、その態度はないだろ」
「別に、頼んだおぼえはないし」
「てめぇ…」
そっぽを向く僕に、眉をひきつらせるグリーン。最早お決まりのパターンだ。
いつもならここで、みんな心配してるんだぞとか煩い説教が入るんだけど、今日は違った。
「…?」
グリーンが何かの包みを、無言で突き出してきた。赤い包装紙に、ピンクのリボンが施してある。
「何これ?」
「いいから」
グリーンは問いには答えずに、包みを押し付けてきた。実際に開けて、確かめてみろということだろう。
綺麗に包んである包装紙をビリビリに破るのは気が引けて、爪でテープを剥がして包みを取り払う。中の箱を開けてみると、小分けにされたハート型のチョコがいくつか入っていた。
「…何これ?」
僕は再度訊ねた。グリーンがチョコレートを持ってくるなんて、珍しい。しかも、ハート型だなんて。
「ねーちゃんに、渡せって言われたんだよ。今日バレンタインだから」
「バレン…タイン?」
僕は首を傾げる。グリーンが驚いた。
「おまっ…今日が何日か把握してないのか?」
「うん」
頷くと、グリーンはうなだれた。どうやら僕は呆れられたらしい。
「ポケギアはどうした」
「電池切れてる」
「そんなことだろうと思ったよ!」
呆れ返るグリーンは放置して、僕は手元のチョコを見た。菓子なんて久しぶりだ。
「ねーちゃんが、どうしても今日持ってけってうるさくって。だから、オレも今日来たのに…おまえってやつは…」
うだうだと愚痴るグリーン。僕は構わず放置して、チョコレートを口にする。
「…甘い」
「人の話聞けよ!」
「美味しい」
思わず口が綻んだ。舌の上で転がすと、チョコレートは甘く溶けてほろ苦い。自分から所望する程菓子は好きではないが、これは美味しい。
「…ねーちゃんの手作りだかんな」
僕を咎めることを諦めたグリーンが、拗ねた声でそう言った。流石、料理上手のナナミさんだ。
「おまえのためにって、頑張って作ったんだぞ」
「うん。ナナミさんに、美味しかったって言っといて」
「ああ」
「それとグリーン」
「あ?」
「…ありがとう」
「………」
グリーンが黙り込む。僕はその間、チョコレートを味わいながら待った。
「…どういたしまして」
俯き加減にそう返事したグリーンに、僕は満足して笑った。





▼遅れたけど、バレンタイン。この二人が愛しくてたまらないこの頃。



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