恋の始まりは

ドキドキとか、そんなあまっちょろくて柔らかい感情はなかった。ただ、他のヤツに奪われたくないだとか、他のヤツと仲良くしてんのを見るのが面白くない、だとか。

尖った感情が溢れてくるのと同時に、完全にさつきのことが好きなんだって事に気がついた。



「だいちゃーん。あのね、テツくんがね!」

惚れた相手には、好きな男がいて、毎日毎日、格好良いところ、好きな所を延々と聞かされて地獄のような日々を過ごしていた。

「そりゃ良かったな。なー、オレに好きなオンナが出来たらどうする?」
不意に気になった事を聞いてみた。
「え、え、どうしよ。どうしよ。アドバイスとかしなきゃだよ、ね」

にこにこ顔から一転、思いもよらない発言に青ざめていく。さつきは密かに、嫌だと思ってしまった。

笑い飛ばされると思いきや、意外な反応に、青峰は驚いた。


「寂しいか?」

「う、うん。こうやって一緒に帰れなくなるとか、話聞いてもらえなくなるとかなっちゃうと寂しいよね」
しょぼんと肩を落とすさつきに、何となく、この恋は不毛じゃないということを知った。

初恋が実る可能性は、たっぷりと有るようだ。男のカンだけど。


「さつきって、テツのこと好きだけど、オレのことも好きなんだろうな」
にやけそうになるのを堪えて、楽し気に紡ぐ。
「は?私が好きなのはテツくんだけですー」

「オレのこと気になってるくせに」
昔から傍にいてくれて、気にかけてくれている。幼馴染だからと言ってしまえばそれまでだけど。

テツしかいない心の中を掻き乱してやろう。

「気になってるとゆか、放っておけないけど、それとこれとは、違うはず」

「段々気になってくると思うぞ。毎日、オレのこと考え始めるだろうな。実は、本当に好きなのはテツじゃなくて、オレなんじゃないかとか」
「からかわないでよ。分かった!大ちゃん、私のこと好きなんだ。だからそういうこと言うんだ!」
やられっぱなしなので、大きく反撃した。

つもりが、否定せずに、肯定的な笑みを浮かべる青峰にさつきは黙ってしまった。


「やだ。違うって言ってよ。ホントに気になっちゃうじゃない。大ちゃんのばか」
意識するように仕向けられたのか。心臓の音がうるさくなっていく。
さつきの思考は、青峰の思うが儘だった。


無理やり始まる恋も、あるかもしれない。

END

2018/11/27




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