※帝光時代







テツと喧嘩した。理由は確か、ああ、なんだったか。とても些細なことすぎて覚えていない。屋上に来たテツがする他愛のない話に乱暴に相槌を打っていたらそれを指摘されて、それは自分の虫の居所が悪かったせいだがそれをテツに伝えるのも気が引けて、ただテツに八つ当たりした。テツの言い分なんて聞かずに罵った。そんなことしてるもんだからテツも呆れて溜め息を一つ置いて屋上から出ていってしまった。当たり前だ。頭が冷えた今、自分の言い分がいかに自分勝手だったか思い知らされる。

『テツには分かんねぇよ』

それは先程自分がテツに言った言葉。思えばこの発言が一番自分勝手だった。自分とテツは違うのに自分の思考をテツに強要、押しつけた。あのときのテツの顔は、キレていた自分の心にもかなりきた。そこでやっと自覚した。やりすぎた、と。
屋上から見上げる空は真っ青で綺麗な青空。自分とは正反対の青空に嫌気がさす。どうやってテツに謝ろう。強情な自分のことだからテツと顔を合わせたらまたしょうもない喧嘩をするかもしれない。思っていることと違うことを言ってしまうのが情けないが自分の特徴だ。

「…どーすっかなぁ……」

テツのあの透きとおった水色の瞳には自分はどれほど醜く見えたのか。機嫌が悪いときにテツに八つ当たりすると当たり前のように正論が返ってくる。それにまた苛つく。本当は自分に同意してほしい。嘘でもいいから、あの綺麗な声でそうですね、君の言うとおりです、と言って欲しいのだ。そんなはずもなく、売り言葉に買い言葉。自分は何度も喧嘩違う、自分の一方的な八つ当たりをしてしまったがテツは結局いつも折れてくれた。さっきはすみませんでした、ボクもカッとなって言い過ぎました、と。
違う、テツは悪くなんかない。どう考えても自分が悪いのに、自分は優しいテツにこれ以上自分は何を求めようとしているのだろう。謝ろう。謝りたいじゃなくて、謝る。今日はなんとしても自分から、テツに謝るのだ。そうしたら何か少し変わる気がする。また次テツと喧嘩することがあったとしても、次はこんな風に何もかも終わった後に後悔するんじゃなくて、喧嘩してる途中にでも、言い過ぎた、悪かった、と素直に言える気がする。うだうだと後悔するのは終わりだ。
自分は起き上がってテツを探しに行こうと屋上のドアノブを回した。しかし同時に人が入ってきた。それは紛れもない自分の頭を占めているテツだった。

「青峰君…」

まさかこんなに早くテツが来ると思わなかった。いつもならこんなに早く来たりしない。いきなり出鼻をくじかれたような感覚になってしどろもどろしてテツを見る。一方テツは手に持っていた2本の飲み物のうち1本を自分に渡し、いつもの落ち着いた声で言った。

「少し話しませんか」






沈黙。あれからテツは黙ったままだ。スポーツドリンクの蓋を開け小さく喉を鳴らして飲んでいる。なんだこれは。とりあえず自分を落ち着かせるためにもらったスポーツドリンクの蓋を開けごくごくと飲む。

「あの」
「お、おう!!」

急にテツが言ったから少し噛んだ。もしかして、次に言われる言葉は。

「すみませ」
「ちょっと待て!!」

テツの言葉をかき消すように声をあげる。テツはびっくりしたようで目を丸くしてこちらを見ている。

「俺から、言わせてくれ」

きっと今日じゃなくてもいいんだろう。今日謝ってもまた喧嘩するかもしれない。でも、このままくすぶっているよりは全然いい。結果も大事だが、同じくらい過程も大切なのだ。

「ー…悪かった、八つ当たりして」

それだけだった。たった一言だったけど随分喉につっかえた。

「かわなわねぇな、テツには」

テツは自分の嫌な部分も受け止めてくれる。だったら自分も「テツの重荷になっている」と考えるのではなくて「自分もテツの何かを背負っていきたい」と思いたい。テツが嫌な部分を、支えたい。最も、自分はテツの嫌な部分なんてないのだけれど。

「青峰君は十分ボクを支えてくれていますよ」

それらしいことを言ったらテツからそんな答えが返ってきた。まだだ。まだ全然自分はテツのことを支えられていない。自分はテツとずっと一緒にいたい。何があっても。例えテツが自分から離れることがあっても、絶対に離してやらない。また今日のように自分がテツに八つ当たりして喧嘩することがあっても、「ごめん」なんて言葉がなくても許しあえる仲になりたい。

「ずっと一緒にいような、テツ」
「はい、約束です」

そんな自分の熱く大きな思いを胸に秘めながらテツと誓った。




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5000打企画、鈴木さまのシチュエーションを書いてみました!
今日は青峰の誕生日でしたので、それも兼ねて(^O^)
素敵なシチュエーションがこんなのになってしまってすみません…
企画参加ありがとうございました!



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