これの続き
黒子っちにょた










恋をした。気がする。
先日は恋ができないだとか相手と同じ気持ちを返せているかなどとうだうだ語っていたのに今の自分の気持ちの変わりようと言ったら。情けなくて何も言えない。そうだ、自分は、赤司に恋をした。気がする。恋、というものを知らない自分はこの感情が本当に恋なのか分からない。でも赤司と話したあの時間、あの瞬間、自分が確かに感じたあの思いは、思いが、恋なのだろうか。
あれから数日、自分はまともに赤司と話をしていない。話しかけられてもどこかよそよそしくし、目が合う前に目を逸らした。周りに相談もできない。自分の周りは恋に疎い人や面白がる人しかいない。どうしよう、これが恋?だとしたらどうすればいいのだろう。ああ、本を見直さなければ。
小さく溜息をついて図書室に向かった。





最近テツナに避けられている。ような気がする。
自分の気持ちを正直に伝えたあの日から、僕に対するテツナの対応が随分よそよそしくなった…ような。もちろんあの日言った言葉は嘘ではないし、少し勢いまかせに言ったところもあるが自分の紛れもない本心だ。
テツナには僕も恋は分からない、なんて言っておきながら僕は恋を知っている。テツナに対するこのあたたかい気持ち。これが恋なんだ。半ば告白じみたあの日の言葉を笑顔で受け取ってくれた彼女。まさかドン引きした、なんてことは考えたくないけどもしかしたらそうなのかも。どうしよう。柄にもなくくじけそうだ。恋は理屈がきかない。特にテツナみたいに恋愛に疎い彼女は自覚するまでに時間がかかるに決まってる。半ば告白じみたあれも、テツヤからしたらただ「励ましてくれた」に過ぎないのだろう。…よかったような、よくないような微妙な気持ちだ。

「………」

読めない。いくらなんでも人の心は読めない。とりあえずテツナが来そうな図書室に来てみたが未だテツナは来ないしこれからの対応も思いつかない。やはり勢いまかせで告白するのは駄目だった。もっと時間をかけるべきだった。…そんなこと、考えても遅いが。
がら、と図書室のドアが開いて女生徒が来る。テツナだった。



なんで。どうして。なんでこんなところに。
それを考えるよりも自分はどうやって赤司と話すかが問題だった。

「…あ、かし、くん」
「…テツナ。聞きたいことがあるんだけど」

どき、と心臓が高く鳴る。自分は赤司を見つけたときから、赤司を目を合わせられない。
動悸が早くなる。体中の熱が顔に集まっていく様。嫌だ。こんな顔、見せられない、見せたくない。俯いていると赤司がこちらにやってくるのが分かる。

「ちゃんとこっち見ろ」
「や…」

ぐい、と肩を掴まれ無理矢理に目を合わせられる。恥ずかしい。こんな顔、見られたくない。

「や、だ……っ」

自分がどんな表情をしていたかなんて分からない。ただひたすら目を瞑って顔を逸らして、今自分ができる精一杯の抵抗をした。

「…テ」
「やだ…嫌です、離して下さ……」

赤司の言葉なんて聞かずにただ否定する。ちゃんとここで赤司の顔を見ればよかった。無知は恐ろしいと凄く思う。

「…テツナは、そんなに僕が嫌いか?」

え、と心の中で声を漏らす。おそるおそる顔を上げるとちら、と見えたのは傷ついた赤司の顔。ずきり、と心の奥の方が痛んだ。

「赤司く」
「テツナは、僕に恋をしてくれるのかと思っていた…でも、違ったようだね。すまない、この間はあんなことを言ってしまって」

自分が、赤司を傷つけた。
違う、自分は赤司に、こんな顔してほしかった訳じゃない。自分の恥ずかしい、だとか見せられない、なんていった我侭で赤司を傷つけてしまった。恋は難しい。マニュアルがきかない。本がすぐ近くにあるけど、今はそんなの読んでいる場合じゃないのは重々承知している。じゃあ、どうすれば。自分が持っている力をすべて使って考える。生ぬるいフォローは逆に彼を傷つける。じゃあ、どうすれば。
…そうだ。あの日、彼が自分を励ましてくれたように自分もはっきりと今の気持ちを伝えれば。まだ曖昧な気持ちだけど、それでも彼の心に響くかも知れない。
立ち去ろうとする赤司の手をぎゅ、と力強く握って震える声で精一杯言う。

「違うんです、あの、君のことが嫌いだから避けていた訳ではなくて、あの、えっと、」

とにかく彼を引き止めようと言葉を続けるも上手く言葉が見つからない。そんな自分を見て彼は驚いたような表情をしてすぐに自分の手を握り返してくれた。震える手に、温かい赤司の手が添えられる。

「…ああ、大丈夫。ここにいるから」

頭に響く声を聞いて小さな深呼吸をする。大丈夫だ。大丈夫だから。ひたすら唱え続けて言葉を続けた。「…あれから、変だったんです。君を見ていたいのに君に見つかりたくなくて、君と話したいのに上手く話せなくて。変なんです。普段の私じゃないんです…」
「え」
「赤司、君。これって、恋ですか…?」

今度は赤司の目を見て、ちゃんと言った。なんだか久しぶりに見る赤司の瞳は燃えるような赤だった。

「…うん、テツナ。それは恋だ。君は、僕に恋をしているんだ」
「…そ、なんですか……じゃ、じゃあ私は君のことが好きなんですね!?」

そう言うと赤司は少し顔が赤くなっていて、そんなに直球に言われると、などと何か言っている。小さな声なので上手く聞き取れないが。

「あ、あの…?」
「ー…うん、そうだね、僕も君が好きだよ。これからももっと君を好きになるよ」

自分の髪を梳く赤司の手は酷く優しく、改めて彼から好き、という言葉をもらったことに顔が赤くなる。
これからよろしくね、可愛い彼女さん。なんて言われて、自分は恥ずかしくて何も言えなかった。心の中で、いつまでもよろしくお願いします、大切な彼氏さん、と呟いた。ちらりと見えた赤司の顔はまるでその言葉が伝わったかのような優しい表情をしていた。



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よちよち恋愛な赤黒


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