夢を見ている。

自分は一面真っ白な場所の中で一人棒立ちしていて、前には自分の大好きな赤司。しかし隣には長い髪の女の人がいる。
赤司は自分には見向きもせず、その女の肩に手をまわしている。まるで壊れものを扱うかのように大切に。横顔しか分からないが女はとても幸せそうな顔をして、それを見た赤司も幸せそうに微笑んでいる。
赤司の手つきはいつも自分にしてくれているそれで、二人は特別な仲なのだとすぐに分かった。その光景を一人で見ているなんて、これはなんという拷問だ。今直ぐにでも赤司の隣に行きたくて走るのに、赤司には届かない。伸ばした手も無残に空を掴むだけ。だんだん離れていって、次第に見えなくなった。涙で目が霞んで、視界もぼやける。真っ白だった場所はいつしか真っ黒になっていて、闇の中に一人置いて行かれた気分になる。
嫌だ、置いて行かないで、独りにしないで、赤司君、赤司君。
叫んでも叫んでも声は届かず真っ黒い世界に響くだけ。もしかしてこれが僕の末路なのだろうか。赤司と離れて、でも自分は赤司のことが忘れられなくて、それなのに赤司は自分のことを忘れて、別の人と。
そんなの嫌だと強く思った瞬間、ぱち、と目が覚める。
額に髪が張りついている。冷や汗やら心臓の動悸やらが凄くてひとまず息を整える。夢で良かった。ひたすらそう思う。
部室で寝てしまったようで、自分のロッカーを背に床に座り込んでいた。辺りはもう真っ暗で、電気のついていない部室は先程の夢のあの闇に似ている。あの夢は思い出すだけで悪寒がする。
もう帰ろう、寝起きの少しだるい体を持ち上げ素早く着替える。とにかくここから出ることを考える。変に高ぶった頭は電気をつけるという行為を忘れてしまい、真っ暗な中支度をする。せっかく整えた動悸もまた早まり、冷や汗も出る。
ガチャ、とドアの開く音がして振り返る。

「テツヤ、まだ帰ってなかったのか」

そこには良くも悪くも自分の頭を一杯にしていた赤司がいた。
赤司の姿をみたらなんだが体中の力が抜けて、動悸も冷や汗も収まる。手に持っていた鞄を床に落としたのもお構いなく赤司の元に走っていき、そのまま抱きつく。赤司はちゃんと自分の傍にいるのだと実感するために。

「テツヤどうし……」
「赤司君、赤司君。赤司君、赤司くん…っ」

ひらすら名前を呼ぶ。抱き締め返してくれる手は優しくて、嬉しいのかあの夢に重なって辛いのかなんなのか分からなくて涙だけ出てくる。

「テツヤ…?どうした。なにかあったか?」

赤司君はいる、ちゃんと。自分を見ていてくれている。
何度自分に言い聞かせても現実味がわかなくて、腕の力を強める。

「ー…テツヤ、苦しいよ」

苦しい。
自分は赤司に恋をするたび辛くなる。赤司にときめいたり自分を愛してくれているのだと実感するたび、不安に苛まれる。この優しい手が、表情が、心が、赤司そのものが、自分のものでなくなる日がいつか来るのではないかと頭の片隅で考えてしまう。
赤司をこれ以上好きになりたくない、愛されたくない、束縛したくない。でも、好きになりたい、愛されたい、束縛したい。
自分の中にこんな感情があることを知らなかった。未知の感情。それは様々なものがある。愛情も、庇護欲も、陶酔も。嫉妬も。
嫉妬は厄介だった。自分はどうやら心配性らしく妙に考えすぎてしまうところがあるのか今までにも似たような夢を何度か見たことがあった。覚めた後はひたすら不安に苛まれて大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせるのが当たり前になっていた。
赤司は自分を見ているのに、その事実を信じれない自分と信じれる自分がいる。天の邪鬼すぎる自分の感情に呆れる。

「赤司君、」
「なんだい?」

赤司君はずっとボクの傍にいてくれますか、と小さな声で言う。今まで赤司にこのように狡い言い方をしたことはなかった。明らかにおかしい自分が今にも消えそうな声で赤司のどんな言葉を待ってるかなんて、頭の良い彼には分かりきっている。

「…ずっと、とは約束できないな。すまない」

どすんと、心にのしかかった。そこは嘘でもずっと傍にいると答えて欲しかった。やはり赤司はいつかボクを捨ててしまうのだろうか。

「…なんでですか」
「ああ、言い方が悪かった。僕達はもう進路を決めなければならない。そしていずれ就職する。進学にしろ就職にしろ、僕達がずっと一緒にいることは不可能だ。時間は止まってはくれないからね、今この瞬間もすぐ過去に変わる。生活環境が変わる中で、テツヤも僕もこの気持ちをずっとこのまま保てる?」

こくこくと頷く。自分はずっと赤司に対する気持ちが変わらないと約束できる。

「少なくとも僕は無理だ。テツヤに抱く気持ちは今よりずっと大きなものに変わるだろうからね」

つき落とされてすぐに上げられたような気分になる。赤司の言葉を理解できなくて必死に考えていると赤司が言った。

「会えない分気持ちは大きくなる。僕はテツヤが思っているよりずっと君に依存しているから、きっと今より束縛してしまうだろうね。テツヤに見放されるかもしれないし」
「そんなこと」
「まあ離さないけど」

とくん、と心臓が高鳴る。なんだかんだ頭で考えていても赤司の一言で左右される自分はどうしようもない馬鹿だ。

「だからずっと傍にいることは約束できない。でも今よりもっとテツヤを愛せる自信はあるよ。むしろそれしかない。これじゃ、ダメかい?」

赤司はいつもそうだ。自分が思っている以上の言葉をくれる。十分です、十分すぎますと赤司に伝える。また強く抱き締める。鼻をすすると泣いているのかと尋ねられた。目に涙を溜めて泣くのを我慢している自分を泣いてないと表現するのはおかしかったが意地で泣いてないと言った。

「赤司君、」
「ん?」
「だいすきです」

そう言うと赤司は一瞬体が固まってすぐにまた力強く抱き締めてくれる。

「僕も大好きだよ、テツヤ」

こうして言葉をもらってもまだ僅かに残る不安。だけどまた不安になっても大丈夫だ。今のように言葉をもらって、愛されていると実感する。独りじゃないと思う。そして彼をもっと好きになる。

「大好きです」

そして束縛するのだ。




------------------
小説の書き方を変えた結果長くなったし読みづらい…でしょうか。
狂愛というか、ちょっとアレなやつ書きたかったのにあるえ
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -