※後味の悪さ注意
「はい、どーぞ」
初めて通された彼の部屋はごちゃごちゃしていた。
汚いとかそういう意味ではなくて、棚には小さい雑貨や、読み古した本、バスケ雑誌など様々な物が並んでいる。僕は彼を必要最低限のものしか置かないような主義だと思っていたので(どちらかというと彼は潔癖だし)その部屋をじっくり眺めてしまった。
「…意外でしょ、物がごちゃごちゃしてるから」
「あ…すいません。そんなつもりじゃ」
「全然いいっスよ。よく言われるっスから。姉ちゃんにも言われたりしてるっスから」
彼の部屋は一言で表すなら「暖かい」だ。壁や棚も全て暖色でまとめられていて、床はフローリングで全体的に安心感があった。初めて来た部屋なのに、とても居心地が良いのだ。
「とても…居心地がいいです。初めて来たのに、不思議ですね」
素直にそう伝えると彼はにっこり笑ってありがとうと言った。それから彼はこの部屋について話してくれた。小さい頃から部屋は物に溢れていたとか、ここの部屋にある物は全てに思い出がつまっているから捨てられないなど、かれはこの部屋をとても大切にしていた。あたたかな思い出に包まれているこの部屋は彼の歴史なのだ。
「…思い出がたくさんで、とてもあたたかいです」
思ったことをそのまま伝えた。この部屋に自分との思い出はあるのだろうか。バスケ部仲間としてではなく、彼の恋人としての。出会った日も彼の恋人になった日もどちらにせよあまり変わらなく、僕は彼と会ってまだ短かった。それなのにこの部屋に思い出を求めるのは無理なことだけど、どうしても考えてしまう。もうたくさんの思い出があるこの部屋に自分との思い出はいらないんじゃないだろうか。
「…黒子っちとも、たくさん思い出作りたいね。これからもずっと」
どうか見透かされないようにと願った僕の思いも虚しく彼は全て把握していたみたいだ。 おまけに永遠を匂わせるような発言まで。そうやって僕の言葉にしない思いを掬い取らないで。優しく抱きしめたりしないで。永遠なんてないと、僕は知っているはずなのに「ずっと」を願ってしまいそうだ。
「ずっと一緒にいよう、黒子っち」
顔を近づけられる。おかしいな、彼の吐く夢物語は嫌いなのに、彼の手や気持ちは振り切れないんだ。
やはり、永遠などなかった。
高校に入学し彼は寮に住み始めた。一度訪れたそこには最低限必要な生活用品しかなかった。あの部屋も、ごちゃごちゃしていることが嫌になったのだと言って片づけられていた。真っ白な壁に机とベットとクローゼットと本棚。それぐらいしかなくなってしまった彼の部屋はあの頃より淋しく見えた。
僕は彼と距離を取った。
部屋のことが理由ではない。ただ、なんとなく彼と僕は違ってきたのだ。彼はそれから異常に僕に固執し始めた。一人にしないで、一緒にいよう、約束したよね、僕を抱きしめてそう言うようになった。それが逆に僕の気を離させるのだとわからなくなるほど彼は弱くなっていた。永遠というものに縋った彼の心はもうどこか遠くに行ってしまって帰ってこないみたいだった。僕も、全てを投げ出して彼のところに行ってしまえば、彼と永遠になるのだろうか。
「黒子っち」
頬に手を当てられ彼の顔が近づいてくる。おかしいな、「彼」のことは嫌いなのに、僕はまだ彼を振り切ることができないんだ。彼のせいで未だ永遠に辿り着くことができず、真っ暗な闇を彷徨い続ける。僕は目を閉じて心の中にある永遠を誓ったあの日を黒く塗り潰して消した。心はひどく痛んで咽び泣いているようだったけど、そんなこともう気にならなかった。
∴本当は愛していたんでしょ、あの子のこと
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突発的に考えた話なので、何が書きたかったのか自分でもわかりません
黄黒、好きですがあまり書いたことなかったので新鮮でした