これの続き
黒子っちにょた







赤司とつき合い始めて早二週間。恋とは自覚してしまったらすぐに慣れるものなのかと思えばそうではないらしい。今まで自分の知らなかった感情がたくさん現れて、その度しどろもどろしている。本で知識をつけることは赤司に禁じられてしまった。でもこうやってゆっくり恋を理解する課程が好きだから苦にはならない。恥ずかしいから言わないけれど。

「っ、ん…」

そしてそんなこと今はどうでもよかった。現実で起きていることがあまりにも信じがたくて、つい逃げてしまった。
自分は、現在進行形で赤司にキスをされている。それはそれはねちっこい、中学生に相応しくないキス。自分にとってこんなキス初めてで、どうすればいいかわからず赤司にされるがまま。口内で動き回る赤司の舌に自分の舌を絡めとられたり歯列をなぞられたりいい加減腰が抜けそうだ。赤司はこういう行為に慣れている気がする。

「あか、く…っ。も、や…」

酸素が足りず言葉が言葉にならない。自分は今人様に見せられる顔をしているだろうか。いや、その前に自分がちゃんと人間の形を保てているかどうか心配だ。赤司はやっと解放してくれた。途端にずる、と下に崩れ赤い顔のまま息を整える。酸欠で死にそうだ。

「っ、は…っ」
「…あ、ごめ…」

赤司は我に返ったような顔をして座り込んだ自分に手を差し伸べる。その手を握る気にもなれなくて未だ息を整える。

「…なん、でキス…」

赤司とキスをしたのは初めてではない。しかしそれは片手で数えられるくらいの回数で、触れるだけのキス。それだけでもすごく恥ずかしかったのにいきなりこんな噛みつくようなキスをされて、恥ずかしいを通り越して何なのか分からない。

「ごめん、テツナ。ちょっと自制がきかなくて…」

やっと立ち上がり、珍しく言い訳をしている赤司を見つめる。彼はなぜ急に自分にキスをしてきたのだろう。そういうムードでもなんでもなかった。ただ廊下を歩いていたら強い力で腕を掴まれてそのまま人気のない教室に連れ込まれただけ。そしてねちっこいあのキスをされた。いつもの赤司でないことなんてとっくに気づいていたが、その原因を考えることができるくらいそのときの自分は冷静ではなかった。でもこうして改めて考えてみたら、自分に原因があるのかも。具体的にどう、とは言えないが自分に原因があるから赤司は自分にいきなりキスをしたのかも。

「…あの、私なにかしましたか?」

とりあえず聞いてみた。自分は恋愛感情云々に関してはとても鈍いらしい。人の気持ちには敏感な方だと思っていたのだが、どうやら恋愛感情は別らしい。他人のことなら聡いんだけどな、と赤司に言われた。つまりそういうことなのだろう。
以来自分は自分で分からないことがあったら向こうに聞く、という手段をとっている。自分が下手に行動するよりはよっぽどいい。この方法で自分は恋を少しずつ理解している。

「…何も、ないよ」

赤司はそう言ったけれど僅かにいつもと表情が違って、今の言葉は嘘なのだと分かる。赤司が自分に嘘を言ったのは初めてだ。いつも赤司は自分に優しく恋のなんたるかを教えてくれた。

「…嘘ですね」

あやしい、あやしい。彼は絶対にはぐらかした。恋もきて少しずつ知っているが彼、赤司についても大分分かってきていると自分は思う。あからさまな隠し事や彼の小さな感情の変化にも気づいてきたはずだ。
自分がそう言っても赤司は表情を変えずに嘘じゃないよと言う。嘘だとわかるのに何も言えない自分が情けなくてたまらない。
私は重荷ですか、とぽつりとつぶやけば赤司は違う、と少し強めの声で主張した。そのあとすぐに我に返ったかのように顔を手で隠し大きく息を吐いて言った。

「君が、可愛いから…。傍に置いて、離したくない。離せない。俺は、君を縛っておきたい…と思ってしまっただけだ、気にするな」

驚いて顔を上げた。びっくりした。赤司は照れたように顔を背け咳払いをしている。まさか、まさか赤司からそんな言葉を聞くとは思っていなかった。赤司は自分にそんなこと言わなかった。どちらかというとそんなことを言っていたのは自分のほうで、赤司はそれを黙って優しく聞いてくれていた。こんなとき、自分は赤司のように優しい言葉をかけてやれない。思いつかない。ああ、どうすればいいのだろう。

「いいですよ、縛って」

こんなことしか言えなかった。本当だった。縛ってくれて構わない。束縛は嫌いなほうかと思っていたが、好きな人からされるなんて嬉しいことこの上ない。自分が言った言葉に赤司は驚いたのか目を丸くして、そのあとすぐに微笑んでくれた。

「じゃ、遠慮なく縛らせてもらうよ」

ぐ、と腕を引かれバランスを崩した体は赤司の体に寄りかかる状態へと変わる。ぎゅ、と痛いくらいに抱きしめられて、どうしようもない嬉しさが胸をうつ。おずおずと抱き締め返したらもっと力を込めてくれた。恋をするってこういうことなのかと一人考える。

「君は俺のものだ」

そう、自分は赤司のもの。だとしたら赤司は自分のもので、自分だけのものなのだろうか。



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懺悔します。これは甘い話を書くつもりだったんです。だからこれは甘い話です。
誰がなんと言おうと甘い話です!!
…嘘です、甘くないと思います…

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