夢の中にいた君は母親に置いていかれた子供のようで。頼りなく俯く小さな体を自分は遠くから見つめていて、自分の声も伸ばした手も君には届かない。やがてその瞳から涙がぽろぽろと流れていくのを見て、なんとも言えない気持ちが胸をよぎる。助けてやれない。悔しくて拳を握りしめる。そんな夢を見ていた。







「…君、赤司君」
「…え」

テツヤに呼ばれている気がして目を開けると、自分がいつのまにか寝ていたことに気がつく。先程の夢を思い出しなんともいえないあの気持ちに蓋をして、心配そうにこちらをみるテツヤに言う。

「すまない、少し寝てしまった。なんだい?」
「……赤司君、ボクといるのはつまらないですか?」

急に出された言葉に驚いて何も言えなくなる。今はそんな話じゃなかったはずだ。でも冗談でそんなこと言えないのは分かっているし、テツヤの表情からして冗談ではないと分かる。

「赤司君、最近よくぼーっとしてるので…だから、ボクといるのは、つまらないのかと」

苦しそうな表情を向けるテツヤと先程の夢の中のテツヤがリンクして、すぐに否定の言葉を口にしようと口を開いた。

「そんなこと…」

しかしそれはテツヤに止められてしまって、いつものテツヤからは考えられないほど感情に身を任せて自分に言う。

「不安なんです!ボクばかりが、君のこと好きみたいで……」

テツヤは端正な顔を歪め、泣きそうな顔をする。だんだんと声は小さくなっていって、次第に何も聞こえなくなる。そこでやっと理解する。テツヤは言葉に出さないだけで、ずっと不安がっていたのだと。ずっとひとりで。

「…っすまない、テツヤ。最近疲れているみたいで…よくぼーっとするんだよ」

伝えながらテツヤを抱き締める。あの夢はテツヤの心情だったのかもしれない。本当はずっと自分に助けてほしかったけれど、言えずに心の中にしまっていたのかも。自分の気持ちが伝わるように、ぎゅ、と力をこめてテツヤを抱き締める。

「…ちゃんと寝てるんですか?」

そろそろと抱きしめ返してくれるテツヤ。夢の中ではテツヤを救うことは出来なかったが、今ならできる。

「…あんまり」

次第にテツヤは僕の同じように僕に腕を回してくれる。しかしまだ遠慮がちに回される手は、とても愛おしい。
そんな愛おしいテツヤにずっと不満な思いをさせていたなんて不覚だ。

「…ちゃんと寝てか下さい。…君に何かあったら、ボクは……」

どうすればいいんですか、と蚊の鳴くような小さな声で呟いたテツヤ。自分が思っているよりもテツヤの背中は小さくて、この小さい体にどれくらい痛みを与えていたのだろうと考える。

「…今日はやけに素直で寂しがり屋だね、テツヤ。何かあった?」
「…なんでもありません。今日はそういう日なんです」

テツヤ可愛い、と言ってまた強く抱き締める。するとテツヤは不満げな顔をしてぐいぐいと胸板を押してくる。

「離して下さい」
「なんで?あ、今更恥ずかしくなったのか?」

押してもびくともしないからか、急にテツヤがもぞもぞと動きはじめた。もっとも自分がテツヤを強く抱き締めているのでそれは全て無意味な抵抗に終わる。

「可愛いね、テツヤは」
「さっきからそればっかりですね。可愛いってあんまり嬉しくないです」

無意味な抵抗と理解したのか動くのを止めたテツヤは呆れた顔をして溜め息をついて自分を見る。まるで何か確かめるように、自分の顔に手を添えて、じっと見つめる。

「…赤司君は、いなくなったりしないですよね」
「当たり前だろう。急に何を…」

すると珍しくテツヤの方から強くぎゅ、と抱き締めてくる。そこに戸惑いの色はなく、真っ直に自分に飛び込んで来てくれている。やはり何かあったんだな、と心の中で考えながら、とりあえず今は問いただすことより二人分の心音を聞きながらこの行為に浸った。



初めからハッピーエンドは逃げ出していたの。


------------------
元拍手御礼文です(^O^)
大幅に書き直したのですが似たような作品になってしまった…(((゜д゜;)))
初期の頃の作品なんでいろいろ我慢してやってください(笑)


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -