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◎二口と茂庭※hq (2013/08/15)


茂庭さんはかわいい。どこがかわいいかなんて、それはもう全てだ。例えるならゆるキャラみたいな、要はマスコットのようなかわいさを茂庭さんは持っている。からったりちょっかいを出したりするところころと表情を変える茂庭さんが見たくて、俺はよく茂庭さんをからかう。茂庭さんは飽きれているけど、もう半分諦めたみたいだ。最近では反応も緩いものになっている。つまらないと思っていたのは本当だ。
だからだろうか。いや、まさか、そんなことはないはず。もう高校2年なのだから、やっていいことと悪いことの区別くらいはつく。それくらいは分かっている。でないと先輩にちょっかいなんか出すわけないだろう。それなのに、どうして
茂庭さんにキスをしてしまったんだろう。





そんな雰囲気になったわけでもない。もともと男が好きな訳でもない。ただ、なんとなく、いつものようにちょっかいを出していたら急に茂庭さんが可愛く見えた。そのまま脳と身体が言い表せない感情に支配されて気づいたらキスをしていた。少女漫画かよ。
茂庭さんは数秒固まっていたがすぐに俺を突き放し真っ赤な顔で逃げて行った。俺はそのまま動けずに自分のしてしまった行動を振り返っている。

何をしてしまったんだ。確かに茂庭さんはかわいいが、そういった類のかわいいではないはずだ。さっきも、マスコット的なかわいさ、と考えていたのに。こんなのまるで茂庭さんが好きみたいじゃないか。そこまで考えてやめた。なんだか未知の世界に飛び込むような気がしたから。
とりあえず弁解、謝罪をしにいこうと教室を出て廊下を見渡すと、曲がり角に制服の裾が見えた。足音を立てないように近づくと上履きが見えて、三年生の色だったので確信がついた。茂庭さんだ。

静かに、勢いよく茂庭さんの前に立つ。茂庭さんは目を丸くして、そのあとすぐに目を逸らした。顔を逸らしているが耳が赤いのでどんな表情をしているのかはなんとなく想像がついてしまった。ああ、かわいい。いや、そうじゃなくて。

「…さっき」
「っ」
「すいませんでした」
「…………」
「ちょっと、間違えました」

そう言うと、茂庭さんの赤かった顔がどんどんひいてきて、まっすぐ俺を見て言った。

「…なんだよそれ…」

その声には怒りや落胆や色々な感情が込められていて心に直接響いた。茂庭さんは眉を寄せて俺に言った。

「間違えたってどういう意味だよ、違う人と間違えたってことか?お前、他の奴にもそんなことしてるのか?だったら最低だな」

そう言われてなんだかカチンときたので、俺もつい強く言葉を返す。

「間違えたっていうのは、言葉のアヤですよ…なんでそんなにムキになってるんですか。間違えたって言ったのは、からかい方を間違えたってことです」
「お前、からかってキスしたのか?余計最低だろ」
「さっきからその最低ってなんですか!じゃあ何言えばいいんですか、キスしたときの思考でも話せばいいですか?」

そう言うと茂庭さんは黙ってしまった。怒りが感じられるわけでも嫌悪も感じない。これは、言えということなのか。冗談だろ、まさか。
沈黙が続いて、痺れを切らした俺はため息をついてそのときの感情を話した。

「…………や、その……か、わいいなって、思っただけ、です」

自分で話しててなんだかむず痒くなって歯切れが悪くなったし、声も小さくなった。それでもいつもより近距離にいる茂庭さんには十分聞こえていて、茂庭さんは何も言わずに俺を見ると急に顔を逸らしてクスクスと笑い始めた。なんだか負けた気がして悔しい。

「ふ、そっか、ははっ」
「ちょっ、なんで笑ってるんですか。いつもなら嬉しくないとかなんとか言うのに」

茂庭さんにからかわれているこの感じをどうにかすべく冷静さを保ちながら茂庭さんにそう言うと茂庭さんはニヤリと笑いながらこう答えた。その瞬間。

「いや、かわいいなって思ったんだよ、お前が」

この場で茂庭さんを押し倒してしまいそうだった。




∴理屈では表せない



すいませんでした。誰おま状態です…
茂庭さんが廊下にいたのは、途中までわけわからずに走ってたけどふと事を振り返って力が抜けたからです(補足…)
本当すいませんなんか
二茂かわいい。誰かください。

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