◎赤司と黒子 (2012/08/25) 何でもないある日。 昼休みも終わりに近づいた頃、赤司は校庭を歩く。最近、黒子の様子がおかしい、と赤司は考えていた。いや、様子というよりは行動が、だ。 昼休みになるとどことなくそわそわしているし、昼飯も急いで食べている。そして、何かに導かれるように一人どこかに行く。分からない。謎だ。赤司ここ数日悩んでいるが見当もつかない。黒子に直接聞くのが一番手っ取り早いのだろうが、隠しているものをそう易々と教えてくれるはずもない。 まかさ誰か別の奴と、いや、黒子がそんなことするはずがない。まぁ、万が一テツヤが僕じゃない奴と会っていてもそいつから奪い返せる自信はあるが。 校庭を歩いていると小柄な男子の後ろ姿が見える。それは、水色の髪をもったテツヤの後ろ姿で。 真後ろに立っても気づかないテツヤが少しおかしくなって微笑する。彼をそれ程夢中にさせているものは何なのだろうか。 「ー…何を楽しそうにしているんだい?」 僕がテツヤにそう声を掛けるとテツヤはびく、と肩を強ばらせた。 「赤、司君…」 「最近おかしいと思っていたが、こんなところにいたのか。何してるんだ?見せてみろ」 「あ、や、やめてくださ…!」 ぐい、とテツヤの横にしゃがむと、そこには可愛らしく鳴く子猫がいた。 「………」 「あ、あの、迷い込んじゃったみたいで…世話をしているうちに、その、愛着がわいちゃって……」 しどろもどろに言うテツヤ。 「…そうか、」 猫が僕の方に寄ってきたから、猫の頭を優しく撫でる。 そんな僕の様子を見て、驚いたように言う。 「…赤司君、猫は嫌いじゃないんですね」 「好きではないよ」 「猫は気まぐれで言うことを聞かないのでてっきり…」 「そこが猫のアイデンティティだろう?」 猫がするりと僕から離れていって、テツヤの方に寄る。 テツヤは水色の目を細めて、猫を愛おしそうに眺めながら、撫でる。 僕にもそんな目、してくれているのだろうか。 「…まあ、猫で良かったよ」 「え?」 テツヤは僕の言ったことが理解できないというような顔をする。 「浮気かと思ってひやひやしたよ」 「そんなこと…!」 テツヤが大きい声を出すから猫が驚いて、木陰に隠れてしまった。 「…そんなこと……」 「そんなこと、何?」 テツヤは口ごもり、僕から目線を離す。 「君は…ボクがそんなことする人だと思ったんですか?」 悲しそうに、辛そうな顔をして僕を見るテツヤ。 なんだか僕の方が悪いことしてる気分になる。 「…まさか。ただ、そう思われてもおかしくない行動をしてると僕は思ったんだよ」 「…すみません」 「いや、僕の心が狭いのが悪い」 深く考えなくてもテツヤは僕から離れない。 離れられないようにした。 それに、万が一離れてもテツヤを奪い返せる自信はあるのに。 それでも、らしくもないことを考えるのは、人の性と言うかなんというか。 「…赤司君」 「なんだい?」 「ボクがあの猫を世話してたのは…」 風が吹いて、僕とテツヤを揺らす。 テツヤの透き通った水色の髪が、きらきらと陽に光る。 「赤司君に似てたからなんですよ」 いつも無表情の顔が、少しだけ緩む。 それがどうしても可愛くて、思わず抱き締める。 「ちょ、赤司君。ここ学校…っ」 「ー…馬鹿だね、テツヤ」 力いっぱい抱き締めて、テツヤの柔らかい髪を梳く。 「似ている猫なんかより、本物の方がずっといいだろう?」 耳元で囁くと、テツヤは馬鹿は赤司君じゃないんですか、と呟いてこう続けた。 「いいに決まってるじゃないですか」 |