▼ 12/19 (Wed) 22:54 喀血で死にたい、と、そう言ったのは誰だったか。 吐血ではなく喀血。その方が血が鮮やかで美しい赤なのだそうだ。 その綺麗な赤に染まって、死ぬのだそうだ。 げほげほと、咳をするのも苦しい。これは結核、今日の環境で今日の医療でなら滅多にかかることも拗らせることもないような病気。 僕はもうすぐそれで死ぬのだ。 布団は、咳をする度に少しずつ口から吐かれる血で染まっている。 ゴホッ またひとつ咳をすると掌から血が滴り布団に赤いシミをつくる。 あゝ、彼の色だ。 僕は彼に焦がれて止まなかった。だがしかし僕と彼は友人以上でも以下でもなく、僕はこの慕情をついに墓場まで燻らせ続けることになりそうなのだが。 喀血で死にたい。それはその意味を知った時から僕の切なる願いになった。 赤、赤、血の色、彼の色。 ただの赤ではない、何処までも鮮やかで美しい赤。 僕の体からでる彼の色で、それに染まった布団で、その色に包まれて死ぬのだ。 なんと素晴らしいことであろう。 空気に触れ、時間の経った僕の血はもう茶へと変色している。それでもそれは僕の目には赤く映った。 さあもうすぐ、もうすぐ僕の命は果てるのだ。最期にまた咳をして、彼の色に染まって。 ゲホッゴホッ 倦怠感も、呼吸の苦しさも、何もかもが意識の外だった。ただ、掌の赤だけが美しく、その赤が僕の眼球へと滴り、僕の視界は赤くぼやける。 赤。 赤だ。 僕の世界は赤に染まっている。 「赤司くん、」 僕は最期の最期まで彼の色を見続けた。 また次第に変色していくであろうその色は、彼のように遠くなっていき、僕の世界は再び黒になった。 |