※現パロ





「血なんて無くなってしまえばいいのに」

彼女はよくそう口にする。
自分はなにぶん現代国語が苦手であるので、彼女が言う度毎度その意図を汲むことが出来ずに、悩んでいる。

「言葉の意図が理解出来ない」

そうして毎度その深意を探ろうとするのだが、彼女ははぐらかすように、はっはと笑って「お前は分からなくても、いいよ」と髪をぐしゃりと掻き交ぜる。

「いつもそう言うね」

彼女の腕を握る手に力を込める。血が足りていない肌は生白く、保健室の病院みたいな匂いもあいまって、二人だけしかいない此処は隔離病棟のようだ。
こうやってこの世界でも二人だけ、どこかに隔離されてしまえば良いのに。

「なに?」
「いや、死体みたいだと思って」

閉じていた双眸が開く。それも良いねえ、と彼女が言った。

「死にたいって?」
「うーん、生まれ直したいかも」

血がね、別のが欲しいの。と呟く彼女に成る程、と頷く。そりゃあそうかもしれない、小さい頃から事あるごとに血が足りなくて倒れては保健室行きだ。別の、健康な身体が欲しくもなるものなのかもしれない。

「そうだね、貧血辛いからね。ほうれん草が良いよ」
「……えー、そっちか」
「違うの?」


「……違くない、多分」

曖昧に返す彼女は大分楽になったのか肢体をばたばたと宙に浮かす。元気になったのなら帰れば良いのに、そう言ってもどうせ撥ね付けられるのだから言わないが。

「そのうち僕とおんなじ学年になってしまうかもね」
「だって怠いんだよー、嘘じゃない」
「じゃあもう寝たらいいよ」
「やだ。まだ数馬とお話したい」

僕は全てを無視して頭から彼女に布団をかけた。中から不平がぎゃんぎゃん聞こえるけれど、それも全部知らぬふりをした。

しばらくするともぞもぞと蠢いていた布団が大人しくなり、やがてすうすうと寝息が聞こえてきた。


「おやすみ、……姉さん」

僕だって叶うものなら繋がっていない血が欲しい。