なっがい睫毛にくりくりおめめ、やーらかそうな唇に華奢な体躯。これだけ美少女要素が揃っているっていうのに佐久間次郎は男の子だ。なんということだ。世の中狂っていやがる。
「なんで女の子じゃ、ないんだろうね(もったいないもったいないもったいない……)」 「知るか。サッカー出来ないからだろ、サッカー」 「……鬼道さんと?」 「そうだ、鬼道さんとだ」
この佐久間という人は、我らが帝国学園サッカー部キャプテンの鬼道さんが大好きだ。鬼道さんをみつめる彼の瞳は、いつだって恋する女の子みたいにとろけている。いいな。いいなあ、鬼道さん、こんな可愛い子にラブコール送られちゃって。
「佐久間は鬼道さん好きだねえ」 「おう。あんなに尊敬できるプレーをする人も、そういないからな!」 「……妬けるね」 「は?」 「いや、なんも」
少しはその愛想を私にも振り撒いてほしい。私だって毎日毎日、鬼道さんの話やペンギンの話や鬼道さんの話、飽きてないフリしてニコニコ聞いてあげてるのに。私も男の子だったなら、彼と一緒にサッカーしたり、鬼道さんやペンギンについて熱く語ったりできたのだろうか。いや、ペンギンは多分、ないな。
「私も男の子に生まれたかったなー」 「なんで」 「サッカーしてみたい」 「無理だろ。お前とろいし」 「……佐久間より私のがイケメンでも泣くなよ」
ありえねー、とゲラゲラわらう彼が可愛い、いや憎い。長い睫毛に涙の粒がきらりと光る。泣くほどわらったのか、バカ佐久間。
「悪い、そんなに睨むなよ」
涙の粒を払いながら、佐久間はもう片方の手で私の頭をくしゃくしゃと撫でる。可愛いお顔とは裏腹に、私にも触れる手はごつごつとしていた。女の子みたいに、こう、むにっぷにっとしていない、男の子の手だった。 ……うわ、うわあ。なんか、
「に、睨んで ない」 「顔真っ赤。照れんな、照れんな」 「照れてもない!」
いつもみたいに髪をぐしゃぐしゃする手ぇ引っつかんで、爪食い込ませたりしない私にいい気になった佐久間は、両手で犬にするみたいにわしゃわしゃしだす。ちょ、やめろ!耳にさわるな!
「今日はおとなしーな」 「うる、さい!」
佐久間が女の子だったら、多分きっとこんなにドキドキしないのに。私が男の子だったら、こんなのただのふざけあいですむのに。なんで
「なんで、女の子じゃ、ない、んだろっ」 「……さあなー」 「ちょっ、おい、いい加減、やめ」
わしゃわしゃがやっと止まったので、毛羽立ったブラシみたいになってしまった自分の髪を手を櫛みたいにして整える。もう、ブラシも通り越して鳥の巣だった。
「……ぐしゃぐしゃ」 「なあ」 「なによ」
一瞬だけ、私たちの間にある机から乗り出して佐久間が私の耳元に口を近付けた。頭突きでもされるかと思って、目は閉じてしまったけど、佐久間の声はしっかり聞こえたのだ。
「……だったらどうする?」
「っし、ししらないよばか!私帰る!」 「また明日な、トマトちゃん」 「とっトトトマトなんかじゃないし!」
ガシャーンと隣の窓が悲鳴をあげるくらい、乱暴にドアを閉める。なんだあいつ、なんだあいつ!
なっがい睫毛にくりくりおめめ、やーらかそうな唇に華奢な体躯。これだけ美少女要素が揃っているっていうのに佐久間次郎は男の子だ。なんということだ。彼はカッコイイ、男の子だったのだ。
(おまえが好きだから、だったらどうする?)
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