食い入るように部室に設置されたテレビを見つめている。そりゃあもう、このこ、瞬き忘れちゃったのか?ってくらいに。もう外も暗くなってきているのに、ろくに電気も点けず一点を見つめ続けるその光景は異質だ。
ぱちり
(あ、瞬き した……)
カチ、と電灯のスイッチを私が押すのと同じくらいに、彼の目が一瞬閉じる。爛々と輝く彼の大きな目は、獲物が例えブラウン管の端っこに、ほんのちらっと映っただけだって、見逃さなかった。
「なにか用ですか」 「いんや、自主トレ終わったから着替えにきただけ」
疑問符なんかついていない、冷たい物言いだった。多分「邪魔くっさいから早く帰れよ」ってとこだろう。テレビから目も離さずに、可愛くない後輩だこと。
「施錠なら僕がちゃんとやっておきますから」
そう言うと彼はまた、ただ一点のみに意識を戻す。私はああ、じゃ、頼むねえ。ともう聞いちゃいないだろう彼の背中に声をかけ、きぬ擦れの音をできるだけたてないように着替える。 別に私の方が先輩なのだから、ガチャガチャとうるさく音をたてて着替えたって、何ら問題はないのだ。……ないのだけれど、こうなってしまった彼の世界には少しの雑音も干渉させてはいけないような気がして、いつもそうしてしまう。着替え終わっても、やっぱりそろりそろりと出口へ向かう。もう癖なのだ。そうっと振り返って彼を見る。以前のように声をかけてくれたりはしないのだなあ、と彼の背に念を送ってみる。返事はない。
「……先輩?」
突然声をかけられたので、変にびっくりしてしまい、声も出なかった。彼を見れば、くりくりした目が私を捕らえている。久しぶりに彼の世界に私がいた。最近は生気の感じられないような、どよんとした目をしていたから。
「ぼうっとしてましたけど」 「あ、うん。もう帰る」 「……気をつけてくださいね」
前みたいに満面の笑みじゃないけれど、前みたいに抑揚のある声でもない。けれど、それでも久しぶりに口角を上げた彼が以前のように言ってくれた言葉に、私は少し浮かれてしまっていたんだと思う。
「……サッカー、好きなんだね」
ゆっくりとテレビを指差しそう言うと、彼の口から笑みが消える。
「どうしてそう思うんですか」 「え、違うの……ごめん」
「僕、サッカーって 嫌いなんです」
だって、戻って来ないじゃないですか。と彼は眼を伏せた。 そっか、そうだよね。まだ私たち子供だもん。そう簡単に理解しきれないよね。そう思ったらよどみきった瞳も笑わなくなった口も、全てがかわいそうで全てが可愛くなった。彼にそんな顔をさせるなんて、
「……私も宮坂と、同じ気持ち」
行き場をなくした私の指の先には彼の「獲物」がわらっていた。
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