口が悪い、目付きも悪い、ヒキコモリ、おまけに性格も可愛くないときて、君は彼女のどこが良いんだと聞かれても、自分でももうよく分からないのだ。彼女がまだ屈託ない可愛さをもっていた頃の思い出に、自分は髄まで侵されきっているのかもしれない。あの頃みたいに可愛い笑顔を自分に向けてくれる日を待って、俺は今日も彼女に会いに行く。

「……何しに来たの」
「理由がなくちゃ駄目なの?」

タオルケットに頭まで包まったなまえは顔を半分くらい出して、俺を睨む。それから小さく舌打ちをして、再び磐戸を閉ざしてしまった。いつものことだから、俺は気にせずそのままなまえのお気に入りのクッションの上に居座る。

「用、無いならとっとと帰れ」
「学校のプリントだよ、用はある」

証拠だよ、と紙の束を見せればごそごそとタオルケットの中から再び、次はは怒った顔をしたなまえが現れる。これもいつものことなので、俺はニコニコと、素知らぬふりして彼女の話を聞いてやる。

「そんなの先生とかに任せてよ!なんで来るの?!」
「家が近いのと、あと 」
「言わなくていい!」
「……好きな子を心配するのは、そんなにいけないこと?」
「やだ!聞きたくない!」

なまえはいつものようにタオルケットに顔を埋めて頭を振る。そうして俺はそれに追い討ちをかけるように、くたびれた言葉を口にする。

「ねえ、本当なんだ。好きなんだよ」

「どうしたら前みたいに笑ってくれるの?」
「もう笑わない」
「俺、なまえの可愛い顔が見たいな」
「……あんたがその馬鹿みたいな大ぼら吹くのやめたら」

顔をあげたなまえはぼろぼろ泣いていた。これは、いつもと違う。いつもだったらぶつぶつ文句を言った後、俺の帰り際にか細い声でありがとうと言うはずなのに。でも、これはこれで可愛い。

「もう構わないでよ……」

そうだ。俺が何を言ったって、どれだけ本気だったって彼女には届かなかったのだ。なまえの頭の中は俺の言葉なんかじゃなくて、孤独への恐怖に支配されている。床に座る俺の方へ、なまえが歩み寄る。

「あんたなんかサッカー出来なければいいんだ」
「なまえ」
「そんで格好悪いって、女の子に嫌われちゃえ、そしたら 」
「そしたら何?好きでいてもいいの?」

「……大嫌い」

視界が遮られる。目の前は、くらい。本当は知っている。俺が構えば構うだけ彼女がひとりになっていくのも、それでも彼女が俺を完全に突き放すことをしない理由も、全部。

「あんたの幼なじみに生まれた、可愛くない私なんて大嫌い」

だから嫌いならそんなことしないで、どうにかなってしまいそうだ。腕をまわせば怒られるのは分かっているので、今日も俺はされるがまま、届くはずもない言葉を彼女にやるのだ。

「俺はそれでもなまえが大好きだよ」