歳の数だけのろうそくを用意してもらって、たくさんお祝いしてもらって、みんなのより少しだけ大きくカットしてもらったケーキを目の前にしても、私はなぜかそんなに嬉しい気持ちにはならなかった。

ご飯もケーキも食べ終わって外に出る。嬉しくなかった理由を思いつく限り頭の中に列挙していった。誕生日なのに苦手なピーマンが出たから?昨日好きなドラマの録画に失敗したから?つまらないことでお友達と喧嘩をしてしまったから?どれも違う気がした。ピーマンはマキちゃんが食べてくれたし、ドラマは華ちゃんが今度貸してくれる。杏ちゃんとだってすぐ仲直りしたし。ウンウン考えていると、後ろから声をかけられた。

「何……ヒロト」
「お腹でも痛いの?調子に乗ってたくさん食べるから……」
「考え事だよ」

ヒロトがベンチに座る。ぽんぽんと隣を叩かれたので、私も少し距離を空けてベンチに座った。男の子と二人だけってあまりないから、緊張する。

「誕生日くらいさ、難しいこと忘れたら?」
「ヒロトは誕生日嬉しい?」
「うん、そりゃ 人並みに……多分」
「私誕生日嬉しくなくなっちゃった、歳かな」

ヒロトが噴き出す。こっちは真面目に悩んでいるのに、笑うとは何事か。睨む私に気付いたヒロトはごめんねと言って頭を撫でる。

「歳ではないんじゃない?」
「えー、じゃあ何だろ」
「受験とかは?」
「受験?あー……受験かあ」

そうだった。今年で私たちの多くは受験生になる。勉強しなければならないから部活だってやっていられないし、学校だって選ばなきゃいけない。そうして今まで一本だった私たちの道は、少しずつ少しずつ別れていく。みんなで一つだったのが、少しずつ少しずつ分解されていく。

「……あ」
「どうしたの」
「わかった」

分かってしまった、できればこんなの分かりたくなかったのに。認識してしまえばもうそれぞれの目の前にはもう道があるのも分からなきゃ、認めざるをえなくなる。

「ヒロト私ね、寂しいんだ と、思う」
「何で?」
「みんな受験する学校は違うでしょう、県外に進学する子だっているかも。そしたら後何回こうやってみんなで集まれるかな、って 」

話終えてヒロトの方を向くと、目の前の彼は目をぱちぱちさせながら、何だそんなこと悩んでいたの とだけ言った。そんなことじゃないよ、とても大事なことなのに。

「きっとずうっと出来るよ」
「そうかな、でも疎遠とかあるじゃん」
「電話も、手紙だってあるよ」
「あ、メールもあるね!」
「うん」
「……でも大人になったら仕事の都合とかで全員集合は出来なくなるね」
「なまえはうるさいなあ」
「だって寂しいでしょう」


「すくなくとも俺はなまえの誕生会、ずうっと 一生出席してあげる」

だから安心して君の夢のため勉強しなさいとヒロトが私の手を握る。ヒロトはなんでも知っている。全部知って、そうしていつも私の不安を取り除くのだ。優しい人。

「ヒロト……良い子に育ったねえ」

そう言って今度は私が頭を撫でてあげると、がしりとその手が彼の手に捕まった。

「そうかな 」
「ごめん、嫌だった?撫でるの」
「案外君のためじゃなくて、自分のために行動してるよ、俺」

ヒロトの言っていることは、彼よりいくらか成績の悪い私には少し難しかったけれど、私の誕生会にずうっと出席することがヒロトも嬉しいのだったら、私もそれは幸せだ。

「でもそれって私も嬉しいよ?」
「そう、期待しておくよ」