※暗い



ざくざくざくと新雪に僕らの足跡を刻み込む。ふわふわで不安定な地面にふらつく度に、僕の手をひく幼なじみの女の子は繋いだ手をきつく握りしめて後ろを振り返る。

「大丈夫?疲れた?」
「ちょっとだけ」
「がんばれ、しろうくん」

そう言ってまた女の子は僕の手をひいて歩き出す。鬱蒼と茂る木々のせいで、今が何時なのかも分からない薄暗い森の中に二人の足音だけがざくざくと響いた。僕らからしたらすごく背の高い木々は、数多の手を大きく広げる怪物みたいで少し怖い。今度は僕から手をきつく握り返した。

「しろうくん」
「なーになまえちゃん」
「しろうくん、怖いんでしょう」

にやっと笑って振り向かれたので慌ててそんなことないと返したけれど、けらけら笑いながらかわされてしまう。

「大丈夫、私がいるよ」
「……うん」

大人たちが口を揃えて遠いところへ行ったのだと言うアツヤに会いたいと、最初に言ったのは僕だ。なのに、僕はアツヤに会う前にもう何時間歩いたかも分からないこの寒くて暗い森から逃げ出したくなっていたのだ。一人じゃ危ないからとついて来てくれたなまえちゃんもアツヤも置いて、家に帰りたかった。

「……やっぱり帰りたい」
「疲れちゃった?明日にする?」
「ううん僕、アツヤが会いに来てくれるの 家で待つよ」
「……だめだよ」
「どうして?」

「……アツヤくんは私たちに会いに来れないの」

私としろうくんが会いに行かなきゃ駄目なんだ、となまえちゃんは困ったように眉を下げてわらった。

「でも 」
「わかった、私が見つけてくるから」

しろうくんは先に帰ってて、と背中を軽く押される。なんだか呆れられたような、弱虫だと嫌われたような気がして不安になってしまった僕は何度も後ろを振り返った。それでも足は森の出口に向かうのだから、僕は多分どうしようもない弱虫だ。涙の壁の向こうで揺らぐなまえちゃんの表情はよく分からない。

「しろうくん!」

なまえちゃんが僕を大きな声で呼び止めた。


「気をつけて帰るんだよ」

優しい声色にまた振り返ればなまえちゃんが手を振っていて、僕はそれにひどく安心して帰路についた。明日になったら彼女がアツヤを連れて来てくれるのだと信じきって、早起きして二人を迎えようといつもより早くベッドに潜り込んだ。夜通し森を歩いておなかだってぺこぺこだろうから、ベッドの傍になまえちゃんの大好きなお菓子も、アツヤの好きなお菓子だって用意した。そうしていつまでも僕は二人を待ったのだ。





僕は大きくなった。アツヤは相変わらず小さなまま時間が止まってる。なまえちゃんの時間も止まったまま、きっと未だあの暗い森の中でアツヤを探してさ迷っているのだ。