「もう知らない、毎日毎日サーフィンサーフィンって言って私はほったらかされて。それでも楽しそうな綱海を見るのが、すっ 好きだから我慢していってらっしゃいっていっつも見送ってたのに、次はなに、サッカー?次はサッカーサッカーって、毎日言うの?私次はうんと遠くに行っちゃう綱海を笑顔で見送らないと、いけないの?……無理だからね!」

ふうふうと息を切らしながら全部をぶちまけてしまったことに多少の後悔が頭を過ぎる。でも、もう言ってしまったものはどうしようもないから、握った拳に爪をたてるしかなかった。

彼は海が好きで、私は彼が好きだ。それはもう変わりようのない事実であったし、私が彼に会う前から病的にそうであったので、それを含めて好きになってしまった私の負けだ。そう思っていたのだ。

しかし、後からやって来たサッカーを、私は許せなかった。後からのこのこ現れたくせして、彼の心を一瞬にして奪っていったそれが 憎たらしくってしかたがない。だから今、小さな子供みたいで情けないと思いつつもこうして嫌々と愚図るのがとめられない。

「……俺も寂しいんだからな」
「ばっ、ばあああか!誰も寂しいなんて言ってないんだから!ばーかばーか!!」


本当は、こうやって強がって悪態をついていないと泣きそうなのだ、すごく寂しい。今すぐにでも、私もほんとは寂しいのって綱海に抱き着いたり出来たならいいのだけど、生憎そんなキャラじゃないから、そんなのすっごく恥ずかしい。

「なあ」
「……」

ぷいと綱海に背を向けて、部屋の隅っこに座ってだんまりを決め込む。大体、彼は言うのが遅すぎるのだ。明日行ってしまうなんて、急すぎる。お別れの準備なんかできない。そんなことばかりが頭に浮かんで、嫌なのに涙が溢れてくる。泣きたくないのに、ほんとは気持ち良く旅立って欲しいのに。私はほんとに可愛くない。

「……泣くなって」

無言で首だけ振って、泣いてないと示す。思い切り奥歯を噛み締めて嗚咽を怺えているから話せないし、一言だって話したら、泣いているのがばれてしまう。それだけは阻止せねばと、両手で顔を覆う。

「嘘つけ」
「や やめろ、このばか!」

顔を隠していた二つの手が綱海に捕まった。いつの間にか正面に来ていた彼の前に私の、涙とかでぐっちゃぐちゃになった顔がさらされる。目の前の彼は、ほらみろとへらへら笑っていた。自分も寂しいとか、嘘だろこいつ。

「や、やっぱし 寂しいんだもん!悪いの!」
「悪かねぇけど 」
「ま、ま 待ってる、からっ、早く ね!」


「……そんなん言われたら連れていきたくなるだろー」

そういってくしゃりと前髪を撫でつけて、綱海は私の目尻に唇を付ける。

「海と同じ味がするな」

ぺろりと口の端を舐めて、再び近付く彼の体温が本当にいつも、恥ずかしくてどうしようもないのだけれど、今日は甘んじて目を閉じた。