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これは昔々、江戸時代のとあるおはなし

「あーつかれたーごめん団子一個!!」

今、団子を要求しているのは左の瞼にかけ大きな縦の傷がある青年、轟残九郎。実は八代将軍徳川吉宗の隠し子だったりするのだが、全然その威厳を感じさせないので、まわりの人が全く気づかず本当に只の一武士としてこうして買い物に赴いていた。

今日買ったのは、塩とさんま。急にさんまが食いたいと言い出した自分の許嫁のためである。

「お疲れ様、今日は九郎君が大好きな草団子だよー」

その残九郎に子供の拳ほどの大きさのある草団子を差し出したのは、団子屋の一人娘の花梨であった。只の町娘と武士、本来ならこのように軽々しく口を利けるものではない。しかしこのような事が出来るのは、彼が轟残九郎だからだろう。

「今日は菊ちゃんと一緒じゃないの?」

そういいながら花梨にお茶を差し出されたので遠慮なく口に一口含み、ため息をつく。

「菊はゲームしてるよ某の家で。これで3日3晩立て続けにやってるんだよ…マジいい加減にしてほしい…」

九郎には本気で同情するな…と花梨は思った。好きなものに熱中するのは良いがやりすぎなのではないかと思うくらいだ。
それでもこうして菊の為にさんまを買ってきてあげるところは、九郎もまだまだ優しいなと花梨は思った

「へー、ゲームねー」
「すいませーん、団子ひとつー」
「あ!はいはーい。お?真悟くんじゃないですか」
「よっ!あれ?残九郎も居たのか?」

そう言いながら店に顔を出したのは、この町にある道場の跡取りの真悟だった。彼は道場の跡取りとしてはそれなりで、このままいけば将来は立派な道場主になるだろう。
彼は稽古が終わると、花梨の居る団子屋で休憩を取る事が多かった。その為、よく残九郎とも顔を合わせていた。

「お、真悟!!どうよ道場の方は?」
「まーぼちぼちって感じだなー」

他愛もない世間話をしたあとに九郎がここが核心だぞというふうに小声で、

「で、どうなんだよ花梨ちゃんとは?」

いきなり言われたので口に含んでいたお茶を盛大に吹き出してしまった。

「うわっ!!汚っ!!」
「あらあらまぁまぁ!!おかーさーん!!雑巾取ってー!!」

花梨がそう言うと奥の方から雑巾が投げられた。それを器用に受けとると、花梨は机を拭く。

「どしたの!?今日のお茶はせんぶりじゃないよ!?」
「せんぶりて…」

あの体には良いが恐ろしく苦い茶を、稀に悪戯として花梨は真悟の茶の中に混ぜる事がある。

無論今回真悟が吹き出した要因として、茶の種類は一切関係ない。残九郎が言った言葉が原因だ。

「なんだぁ発展してないのかつまらん」
「つまらんってなぁあぁ!!!!」

草団子を頬張りながらつまらなそうに九郎がつぶやいたが言われた真悟のほうは目を白黒させたり花梨に聞かれてないかどうかで必死そうだった
草団子を食べ終わった九郎が懐から紙を一枚差し出し真悟に渡した

「そうそう、これ父さんからのなんだけどさ、…どうおもう?」
「どうって」

大人しく、その渡された紙に目を通した。
そこには、『極秘お尋ね者』と書かれており、人相書きがかいてあった

「見たこととかない?ちなみに某は見たことないから真悟なら、って」

九郎も真悟を信用してのことだろう。本職も中々大変そうだな御試し役以外にもこんなこともしなくてはいけないのかと思い、人相書きをまじまじみる

「いーや、俺も知らねーなぁ…。あ、瀬戸兄弟の兄ちゃんの方なら知ってるかもしれんけど…。しっかしコイツ悪い顔してんな」

瀬戸兄弟はこの町でかなりの力を持つちりめん問屋の若旦那である聡史の世話役だ。聡史がかなり多方面に顔が利くので、その流れで瀬戸兄弟の人脈も広い。
噂によると彼ら兄弟は幼い頃に親を亡くし、路頭に迷っているところを聡史に拾われたという。

「あー、でもどうだろーなー?今忙しかったら、会えないかもしれないからさ、葵か進当たってみたらどうよ?日向家と花本家ならそれなりに何かしってんじゃねぇの?」
「ありがとう、このあとは?」
「暇だぜ?案内しようか?」
「あぁ頼む」

2人はまずは日向家に向かうことにした





「真悟と九郎じゃん。うちに何の用」

それなりの広さのある日向家を訪ねると、たまたま門から出てきた葵が二人に訊いた。

「ちょっと訊きたい事があってな」
「ふーん…。すぐ終わるんだったらいいけどさ。ちょっと今からちりめん問屋の神島さんとこ行かないといけない訳よ。だから話は手短に宜しく」
「神島さんとこ?もしかしたら瀬戸さん達も一緒にいるかもしれないな!!」

丁度いい。そこで訊いてみるのが一番いいかもしれない。九郎は真悟にその方向でいいと思うと自分の意見を言った

「すまないが、某達もそれについていっていいか?」
「あぁ…別にかまやしないけど、そのさんま持ってってのはなぁ…」

しまった、仕事のことに真面目になりすぎてさんまのことをすっかり忘れてた
顔から火が出るくらい恥ずかしい…

「ごめん、これここに置いといていい?後で取りに来るから…」

それをいった瞬間二人に大爆笑されてしまった





さんまを日向家に置き、三人はちりめん問屋へと向かった。

「やっぱさ…。神島さんとこでかいよな…」

真悟がちりめん問屋を目の当たりにして呟く。土地面積は旗本である日向家がゆうに二軒ぐらい入りそうな程である。

「そーだな。ごめんくださーい」

真悟の言葉を軽く流しながら、葵はちりめん問屋の暖簾を潜る。
中は色とりどりの反物や着物が陳列されていた。その商品や客の出入りを見るに、相当な利益がありそうだ。

「すんませーん」
「……誰かと思えば…。日向の坊っちゃんか。いつもご贔屓に有り難い。母君の着物ならもう用意出来ているぞ」

葵が声を掛けると、黒い着物に身を包んだ男性が現れた。その着物はどこか喪服を彷彿とさせたが、彼にとってはそれが普段着らしい。

「頼みます。あ、神島殿はいらっしゃいますかね?」
「……ああ。呼んでくる」

そう言ってその男性は再び奥へと入っていった。
男性が奥へと入ると同時に、葵は二人に言う。

「瀬戸さんに用があったんじゃないの?」
「え?」
「あ!!」

残九郎が疑問符を浮かべたような表情をする中、真悟は思い出したように声を上げた。

「さっきの瀬戸の兄ちゃんだった!!良太殿だった!!」
「あの人が?!」
「まあ後で聞いてみたらいいじゃん。とりあえず神島さんの所に行こう。そうだ九郎は神島さんに会うのは初めてだろ?」

葵が、真悟に向かってはあきれたように言い、九郎にはそのあと優しい人だと諭した

「……聡史殿は奥の部屋にいらっしゃる。まぁ、上がれ」

暫くしてから良太が戻ってくる。彼に案内されて三人は奥の部屋へと向かった。

中庭を眺めながら随分と長い廊下を渡る。庭に植えられた牡丹の花がよく見える位置の部屋に案内され、三人は中へ入った。

「失礼します」
「こんにちはー」

部屋に入るとそこには片目を前髪で隠した一人の男性が居た。どうやら彼が聡史のようだ。

「今日はどうした」
「これを母上から神島殿にと」
「いつもうちの着物を贔屓にしてもらっているから、別に構わんのだが…」

葵は着物の料金とは別に、町で美味と評判な甘味を聡史に渡した。
聡史は多少困ったような表情をしながらもそれを受け取る。

「で、この轟が話があるとかないとか」
「ほう…?」
「あまり人には見せたくないのですが、某が追っているお尋ね者を知らないかと思いまして、これを」

といい九郎は懐から先ほどの紙を渡した
紙を開けて見た瞬間に少し驚いたように、目を見開く

「これは…」
「ご存知…ですか?」

聡史は途端顔がくもり、これは知ってる確信を得た

「…良太下がれ」
「はい」

良太は当たり前のように、命令に素直に従った
良太が去った後に聡史の口が開いた

「…さて、これはどこから説明しようか。残九郎殿」

少し考えて、聡史は言う。近くに人の気配はない。

「……この者はあまり関わらない方が良いだろう」
「どういう事ですか?」
「……いや、この浪人は恐ろしく腕のたつ者でな。以前にもお尋ね者として幾ばくかの侍がこやつに挑んだ。しかし…」
「しかし?」

そこで聡史は一旦言葉を区切った。三人はその言葉の続きを待つ。

「こやつの相手をして生きて帰って来た者は一人も居らん」

その言葉には残九郎は言葉を失う。更に、聡史は話を続けた。

「何人斬ったのか私も詳しくは知らん。だから悪い事は言わぬ、こやつの相手だけはやめておけ」
「成る程だから素性が解らなかったわけだ、某の部下にも調べさせたのですが一向に見つかる気配がない。しかし変死体は増えているどういうことかと頭を悩ましていた所です。しかし誰かが手を下さない限りこいつは人を殺め続ける、誰かが止めなければ」

隣で聞いていた真悟は驚きが隠せずにいた、いつも団子屋で許嫁の愚痴や、たわいもない世間話とかしかしていなかったからだろうか、真面目に仕事に取り組む九郎が輝いてみえた

「九郎…ちゃんと働いてたんだな…」

ポロッと言うと九郎が

「失礼な!!ちゃんと働いとるわぁぁあぁ!!!!」
「悪い悪い」

真悟は軽く詫びを入れた。






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