【2013年 シュラ誕記念】


他の誰かならばともかく、彼からだけはその言葉を貰えるとは思っていなかったし、それが当然だと思っていた。
だから、


「Feliz cumplean~os」


そんな言葉とともに突き出された包みに、シュラの思考が固まってしまったのも仕方のないことであろう。
シンプルな包装の包みとそれを差し出している相手――アイオリアを何度も見比べながら、目を瞬かせるのが今のシュラには精一杯であった。


今日がシュラの誕生日だと知った女神直々に休みを命じられたこの日、当の本人は有り難くも暇を持て余していた。
平和になった証なのだろうが、取り立てて何もやることのない時間など今まで無かった分、どうしても戸惑いが隠せなかった。
その辺りが悪友二人に「不器用」などと言われる由縁なのだろうが。
それでも、わざわざ顔を出しにくる同僚の相手をしたり読書をする内に、ゆるゆると時間は過ぎていき。夜に悪友達と飲む用意をしようとした矢先だった、アイオリアがやって来たのは。
おそらくは、13年前のあの日から初めてに近い彼の訪問にシュラが驚きを口にする暇もなく包みを突き付けられ、今に至る。


「…いらないのか」


不機嫌そうな仏頂面といい、ぶっきらぼうな態度といい、どう見ても誕生日プレゼントを渡す態度ではないのだが、幸か不幸かこの場にそれを突っ込む者はいなかった。
「ぁ、いや…ありがとう」
半ば押し付けられる形で受け取ったそれを所在なさげに弄りながらアイオリアの様子を窺う。
聖戦が終わり復活して、全ての真実が明るみに出てから半年あまり。
一発殴られてチャラにされたアイオロスとは違い、アイオリアとの13年分の確執はお互いにどうすべきか身動きできないまま、ただ時間だけが流れてしまった。顔を合わせれば挨拶をする程度にはなっていたが、きちんと向き合って話すのはいつぶりだろうか。
「…スペイン語なんて、話せたんだな」
「ああ、少しだけな」
今ばかりは自分の口下手さが恨めしい。
せめて、この気まずさをどうにかしようと口を開いても会話が続けられない。
「アイオリア、その…」
何か話さなければ、と言葉を探すシュラの腕をアイオリアは唐突に強く掴んだ。どことなく切羽詰まったようなその様子に腕を振り払うこともできず、ただ困惑する。
アイオリアのエバーグリーンの双眸が正面からシュラを捕らえる。


「シュラ…俺はまだすべてを割り切れた訳ではない、けれど」

「同じ「生きる」であるならば、また昔のように、13年前のあの頃のように過ごしたいと思っている」


元々嘘のつけないアイオリアだ、真っ直ぐな視線で語られるそれが彼の本心であることは疑うまでもなく明らかだ。
許された訳ではないけれど、その歩み寄りたいという気持ちだけで十分過ぎる位だった。
自然と捕まれていない手がアイオリアの頭へと伸びてくしゃりとそこを撫でていた。そう、それはまさに13年前のように。
「ああ、そうだな」
唇が綻ぶのがよくわかった。きっと今の自分はみっともないくらい緩んだ顔をしているのだろう。

「ありがとう、アイオリア」

プレゼントのことも含め、そう言ったとたん。
ぷい、とアイオリアの顔が背けられる。
「…用はそれだけだ。邪魔したな」
「ぁ、ああ」
その理由を問う暇もなく、来たときと同じように唐突に去っていく背を半ば呆然と見送る。
子供扱いしたのがまずかったのだろうか、と一人首を傾げたシュラだが、すぐに考えるのをあきらめもうすぐやってくるであろう友人達を迎える準備へと戻った。









十二宮の階段をアイオリアは俯きながら足早に駆け降りていた。
見えずとも自分の顔が耳まで赤くなっているのがはっきりとわかる。そんな情けない顔を同僚に見られたらなんと言われることか。
シュラがあんな風に笑うところを見るのは本当に久し振りで。だから仕方ないのだ、と声に出さずに言い訳する自分の滑稽さにもういっそ泣きたくすらなってくる。
「昔のように、など」
無理に決まっている。
そんな程度の仲では決して満足できない自分がいると、はっきり自覚してしまった。
それが何の感情に由来するかを考えたくなくて、
「くそ…っ」
誰にともなく悪態をつきながら、階段を下る足を更に速めていった。



その様子を同僚の一人に目撃されからかわれる羽目になるのだが、それはまた別の話である。





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