視線


ふ、とお前の視線が「アイツ」を追っていることに気づいたのは何時だろうか。




お前を見かけた時、歩いている時、話している時でさえ、

遠くに泳いだ視線の先には何時だってあのガキの姿があって。

じっと見つめている時もあれば、無意識の内に見てはすぐに逸らされる時もある。



原因ならわかっている。

どんな理由があったにしろ、あのガキの兄を討ち結果的にアイツをも苦難の道へと堕としたのだ。
気にするな、というほうが無茶なんだろう。

だからと言って、その不器用さ故に近づくことさえできずさらに気を揉んでいるのだってわかっている。



それでも、その切れ長の瞳に浮かぶ痛みの色に…どうしようもなく苛立つ。



お前は知らないだろう?

俺がこっちを向け、と怒鳴りそうになるのを何度堪えたか。

そんなのは俺のキャラじゃねぇ、と何度自分に言い訳したか。

そもそも、俺自身なんでそこまで気にするか分かっていないんだ。そう…、分かってなどいない。


だから、俺のほうなど見ていないお前は絶対に気づいてないのだろう?




なんにせよ、お前の視線があのガキへと泳ぐ度に増す苛立ちは事実で。



だから、


「シュラちゃんってば、ナァニ見てるんだっP」


分かっている癖に問いかければ、わずかに肩を揺らしながら俺を見る漆黒。


「――いや、何でもない」


やっとこちらを見るそれにどうしようもなく満足する。

無意識の内にニィッと歪む口端に気づかないフリをして。


「ふぅん。ま、どうでもいいけどよ」


今度こそお前が視線を泳がせないように、どうでもいい話をしながら然り気無くあのガキを自分の体で隠す。
お前の視界に入れてしまわないように。



馬鹿みたいに鈍いお前は気づいていないだろ?

俺の行動にも、何もかも。


鈍いお前が気づかないから、だから俺も考えないでいられる。



どうしてお前の視線の先にあんなにも苛立つのか、など。
どうしてそんなことに目敏く気づいてしまったか、など。





そうして、俺は今日もまたお前の視線の先のアイツに苛立ち、俺に向けられる視線にどうしようもなく安堵する。






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