||| plus alpha



星々が瞬く夜空は、何時になく澄み渡っている。
獅子宮から次の処女宮に繋がる出口に立ち、アイオリアは一人夜空を見上げていた。
青銅聖闘士達が立ち去った獅子宮は、先程までの戦闘さえ嘘のように静まり返っている。
星矢達は順調に十二宮を上っていったのだろう、戦場は遠くその音さえもう聞こえてこない。ただ高まった小宇宙だけが、激化していく闘いを伝えてくる。
視覚を封じ、ただ小宇宙を捉えることに全神経を注いでいたアイオリアの瞼がふと開かれた。

「――シュラ」

今まさに高まった小宇宙、知らずその持ち主の名が喉を震わせた。
幼い頃は兄と同じように慕い憧れて、あの夜以降は憎しみから意識し続けた聖剣の如く鋭い小宇宙。
夜空を震わせる、彼の小宇宙は本気だ。そこには一分の迷いもない。
けれど、その奥に死への悲痛な覚悟が隠されているのにもアイオリアは――否、アイオリアだけは気づいていた。
ざわつく心臓を片手で押さえる。
城戸沙織という少女が女神であることはもはや疑いようもない。あの青銅の少年達こそが聖闘士の中の聖闘士であることも。
それは同時に教皇と与していたシュラ逹が自分達を偽り欺いていた証でもある。
そこにどんな理由があったにせよ、それは今まさに裁かれるべきことだ。
見上げた先の磨羯宮から感じる小宇宙は一瞬、一秒の間にも高まり続けその死闘の凄まじさを伝えてくる。
どちらか、或いはどちらもが命を落とすのは明白で。
そして、おそらく――シュラが生き残ることは、ない。
確かな予感に、血が出るのも構わずに唇を強く噛み締める。
憎い、はずだった。
この手で殺したい、と願ったことも一度や二度ではない。
彼の存在を感じれば、心がざわついて。
その姿を視界の端に捉えれば、追わずにはいられなくて。
いつか必ず負かしてやろうとずっと、その背中を見ていた。
それなのに、どうして今、彼に死んでほしくないと願ってしまうのか。
どうしてシュラの喪失を思うと、こんなにも胸が苦しくなるのか。
自分でも理由の分からない苛立ちに、ただ戸惑うしかない。
「シュラ、」
呼び掛ける声が届くことはないと知っていたけれど。己の中で蟠る激情を吐き出すように、彼の名を呼ばう。
曇天の中、光る星を探し求めるように。
幼い頃、一人寝の闇を恐れ泣きじゃくった時と同じように。
「俺は――」
高く高く星空へと昇っていく、2つの小宇宙。
ふつり、と消えてしまった小宇宙は間違いなくシュラのもので。
そうして、火時計の山羊座の火は消える。
ぽっかりと押さえたままの心臓を充たす虚無感に、唐突にアイオリアはその感情の名を知った。
ずっと見つめ続けた背中。
振り返って欲しいと焦がれ続けた憎しみの裏返しは

「――お前が、好きだったんだ」

紛れもない、恋情。
彼の幼い初恋は、蕾さえ芽生えることなく手折られ、もう2度と実ることはない。
喪失に、涙はでなかった。
シュラの死を悼むことすら、今のアイオリアにはできない。
ただ、

「…あぁ、」

閉じた瞼の裏、焼き付いたシュラの背中を追う。











一ヶ月以上ぶりの小ネタです
ついでに、久し振りだよリアシュラ!

最近、デスシュラばっか書いてた気がするので、なんか懐かしい気がする…?


というか、リアシュラは好きなんだけど書けないってことに最近気づいた…?
13年の確執とか、アイオロスとの関わりとか、こう妄想のつけこむ範囲がね…、パターンも多いし
設定をしっかりしないとなんだけど、それが一番苦手なんですよねー



とりあえず、シュラsideも近々あげるかも、と宣言して自分の首を締めておきます←

May 27, 2013 19:49
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